第13話 ブラック・スペース・シップと、ペリカルブレイスマシュ(2349年)

2349年、突如としてスリランカの首都、スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ上空に黒い宇宙船が現れた。

それは後にブラック・スペース・シップと呼ばれることになる。

ニホンではクロフネと呼ばれることが多い。


スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテに現れたのは、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンズー教の共同聖地だったことが理由だろう。

事前に地球のことをある程度調べていたわけだ。


公表された情報によれば、クロフネから現れたのは、おそらくダークマターの一種だという。

地球上のいかなる機器を用いても観測できなかったが、確実に何か存在していていたという証言は一致していた。


であれば、幽霊や霊魂の類いではない。

それらは観測可能だからだ。


こちらからは観測できないのに、向こうからはアプローチができた。

空気を振動させて音を発生させ、言葉を話したのだ。

それは、ペリカルブレイスマシュと名乗ったという。

種族の名前なのか、個体の名前なのかは不明だ。

そもそも1人なのか、複数人なのか、数えられるのかすら分からないのである。


ペリカルブレイスマシュの要求は以下のようなものだった。

まず、約24億年前に条約が締結され、宇宙は317に分割統治されることになった。

ゆえに、地球はペリカルブレイスマシュに領有権がある。

それを根拠に、地球にある水を提供せよという一方的なものだった。


ただ、このような事例は人類史上にも見られる。

1492年のコロンブスによるアメリカ大陸到達以降、植民地支配を拡大させていたスペインとポルトガルは争いが絶えなかった。

そこで双方は1496年に、西経46度30分より西に見つかった土地はスペイン、東はポルトガルに領有権を認めるという条約を結んだ。

これをトリデシリャス条約といい、ローマ教会も認めた。


そのため、その境界線より西にある南米をスペインが襲ってアステカ帝国やインカ帝国を滅ぼし植民地としたことや、東にあるニホンにポルトガルの宣教師がやって来たことは偶然ではなく必然だった。

なお、南米でブラジルだけは境界線より東に領域があったため、ポルトガルの植民地となった。


このように当事者の知らぬ間に、勝手に権利のやり取りがされていることは珍しいことではない。


当然、地球各国はペリカルブレイスマシュの要求に反対し、合同の署名を提出。

しかしその7秒後、ペリカルブレイスマシュは月の半分を破壊して見せた。

わかりやすい脅迫だった。


ペリカルブレイスマシュは、300年後の2649年に結論を聞きに来るといい、クロフネとともに地球を去った。


これにより世界は混乱。

鎖国政策から開国へ転換して地球全体でペリカルブレイスマシュに対抗しようとする革新アース派(地球派)と、現状の体制を維持しながらペリカルブレイスマシュの要求に従い、順次交渉していく保守穏健派が対立した。

保守穏健派は既得権益であるという批判を受けた。


ニホンのトーキョー幕府は地球における保守穏健派の筆頭として弱腰な態度を見せていた。

これに反発した尊人派マッキナが、地球を愛する愛国と、ペリカルブレイスマシュに対抗する攘夷を唱えていた思想家デスピーシーズのヨシダ・ショータを救出。


ヤマグチ藩のヨシダ先生の元に彼を崇拝するマッキナが集い、イシン・パトリオットと、その傘下の軍事集団キヘイタイを結成。

ヨシダ先生が寿命で死去したあとも、尊人・倒幕・愛国・攘夷を旗印に活動しているのは、既に述べた通りだ。


そのイシン・パトリオットの幹部の1人が僕、カツラ・コジローである。

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