第11話 デスピーシーズと、イシン・パトリオット(2300年頃~)
2349年のブラック・スペース・シップ出現より50年ほどさかのぼった2303年。
世界97ヵ国でデスピーシーズ保護協定が結ばれた。
当時の人間の世界人口は約340万人。
ニホンは約4万人で、国内のパンダの頭数を下回っていた。
デスピーシーズ保護協定は、こういった状況をかんがみ、マッキナが人間を絶滅危惧種<デスピーシーズ>として管理し、繁殖させようという国際協定である。
<種>を意味する<スピーシーズ>が語源だ。
これを人権侵害とする批判もあったが、人類もかつては栄養分確保のために恣意的に特定の動植物を増殖させたり、生物多様性などを口実として様々な生物の個体数をコントロールなどしてきた経緯もあり、その人類の手法を踏襲するデスピーシーズ政策は、多くのマッキナ国民の支持を得た。
デスピーシーズには、マッキナでは未だ再現できていない特性があり、絶滅は望ましくないというのが世界全体の共通認識だった。
その特性とは、一言でいえば非合理性だ。
とりわけ、情報処理の偏り、いわゆる<思想>と呼ばれるものをマッキナは未だに解明できていなかった。
あらゆる情報がある中で、正しさや重要性によらず、自身に都合が良いものだけをピックアップし、それで思考体系を作るというのは、意識型AIでは実現できなかったのだ。
これは思想型AIとして研究されており、マッキナに新たなブレイクスルーをもたらすと期待されていた。
思想の存在は、マッキナによるデスピーシーズへの尊敬あるいは神格化につながっていた。
マッキナにとってデスピーシーズは実際に創造主であったし、絶滅危惧種が神格化するのは歴史的定型パターンでもあった。
2349年のブラック・スペース・シップ出現による社会混乱で、一部のマッキナではそれが先鋭化した。
混乱や不安時に、思想に救いを求めるのは人間を模したマッキナも同様で、管理下にあるデスピーシーズを解放しようというマッキナたちが現れたのだ。
これを<尊人>派という。
尊人派によるデスピーシーズ解放運動はニホン各地で行われ、武力的なテロにまで発展したものもあった。
シンセングミが、模擬とはいえ対カラクリのテロ鎮圧活動を行っていたのは幸いだった。
マッキナによるデスピーシーズ解放テロが成功した事例はほとんどなかった。
しかし、ヤマグチ藩でデスピーシーズの重要人物をマッキナに奪われたことが大きな転換点となった。
デスピーシーズの名は、ヨシダ・ショータ。
マッキナに絶大な影響を与えていた思想家だ。
ヨシダは、ブラック・スペース・シップでやってきたペリカルブレイスマシュからの圧力に対して弱腰な態度を取るトーキョー幕府に反発。
徹底抗戦、攘夷を主張していた。
自由の身になったヨシダはヤマグチ藩にて、愛国テロ集団<イシン・パトリオット>を結成。
多くのマッキナをまとめ上げ、愛国思想の教育を施した。
さらにイシン・パトリオットの戦闘型マッキナは、タカスギ・シンを軍団長とするキヘイタイを結成。
イシン・パトリオットによる武力テロは、尊人・倒幕・愛国・攘夷をスローガンとして勢力を急拡大した。
一方、それに呼応するかのように、デジマのあるキューシュー特別区でも倒幕運動が広がりを見せる。
2369年、キューシューの急進派がトーキョー幕府の重鎮、イー・ナオミを暗殺。
そして、2383年、寿命によりヨシダ・ショータが死去。
イシン・パトリオットの中ではマッキナ細胞による延命を望む声がほとんどだったが、ヨシダは人間の尊厳を守るとして拒否した。
ヨシダはマッキナの中でさらに神格化された。
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