第6話 スロウナイフ
「カツラさぁ、次の戦闘、これ試してみてくれない?」
シンセングミ、キョート藩シジョー支部の7人のうちの1人、武器兵器担当のヤマナミ・ケーコさんは僕に言った。
「これは?」
「スロウナイフ。レーザーソードの投げナイフ版だね。中距離戦闘用。キョート本部から、試験的に導入してほしいって頼まれてさぁ」
コンドー・イサミ隊長の武器はレーザーランス。
ヒジカタ・トシエ副隊長は格闘。
ヲキタ・ソウコさんは遠距離ライフル。
ナガクラ・ヘーハチは二丁拳銃。
サイトー・ジェシーさんはレーザーウィップ。
確かに、投げナイフなら僕が一番適任かもしれない。
「カツラの戦闘可能距離も広がるでしょ」
「でも、投げナイフなんて地味じゃないですか、配信映像的に。それに、威力は? カラクリのボディを貫通できるんですか?」
「そこはね、本部もちゃんと考えてあるのよ。敵に命中して3秒後、派手にドカン。バズり要素は文句無し。だから、このナイフで斬っちゃダメよ。自分ごとドカンだから」
「なるほど。でも爆発したらナイフはもうゴミでしょ? コスパが悪い気がしますけど」
「それ以上に動画広告で収益が上がるって計算らしいわ。まぁ、本部が作る予算目標が実現した試しなんてないけどね」
「なるほど。本部の夢物語を実践して、<また机上の空論を言いやがって>っていう根拠をつくるわけですね?」
「そういうこと。カツラも分かってきたじゃい。一応、6本くらい持っていって」
僕がシジョー支部に配属されて9ヶ月が経っていた。
出撃回数は11回。
シンセングミも財政難で、カラクリのテロを<起こすため>の経費が重く、以前よりは頻度が下がっているらしい。
給料も上がらず、先輩たちはよくぼやいている。
この前、ナガクラからヒジカタ副隊長の年収を聞いて驚いた。
明らかに職位や責任に見合っていない。
今どき中間管理職になったって、上からのストレスに耐えながら、部下に気を遣ったり、セクハラに怯えたりで、たいして嬉しいことはない。
直属上司がコンドー隊長なのが幸いか。
給料が上がらないのは民間も同じで、最近は<手取りを増やす>という政策が人気だ。
およそ400年前にもそういう政党が乱立したことがあり、そのリバイバルらしい。
もっとも、今は政党という謎の仕組みはないが。
そういうわけで、今回はレーザーソードに加えて、スロウナイフを6本装備して出撃していた。
他のメンバーはナガクラと、サイトー・ジェシーさん。
以前はコンドー隊長かヒジカタ副隊長と一緒に出撃していたが、最近は減った。
6ヶ月の試用期間が終わったこととも関係あるのだろう。
一応、一人前として認められたわけだ。
ナガクラは二丁拳銃で次々とカラクリを撃破していき、ジェシーさんはレーザーウィップの鞭撃で周囲を囲んだ複数のカラクリを一撃で倒す。
ジェシーさんの戦闘能力はコンドー隊長やヒジカタ副隊長を凌ぐ。
それでも5級隊士から昇進できないのは、ハーフ・タイプだからだろう。
確か、半分はアメリカだ。
昔と違って排外的な機運はかなりなくなったものの、外国人タイプは肩身が狭い。
国家公務員の7割が実は外国人タイプだ、というデマもいまだに根強い人気がある。
一方で、金髪や碧眼に憧れる人も多く、ジェシーさんは密かに男性ファンが多いらしい。
自分もあの鞭で叩かれたい、とかなんとか。
それよりも、このままでは僕の出番がなくなってしまう。
僕というより、スロウナイフだけれど。
と、そのとき、カラクリの1体が銃弾をくぐり抜けて、ナガクラに接近していた。
「ちっ! 噂の新型か?」
「ナガクラ、僕に任せろ!」
僕はスロウナイフを2本投げつける。
命中。
3秒経過。
ドゴオオォォオン!!
「え」
爆風は半径23.41メートルに及んだ。
煙の中から、ナガクラが現れる。
左肩から先が切断され、左脚もほとんど破損していた。
「おい。スロウナイフの本部アンケートに書いとけ。エリート様は程度ってものを知らないんですか? ってな」
僕はさらに、新型カラクリを木っ端微塵にしたことで始末書を書かされた。
財政難に鑑み、今後は新型はできるだけ破損させずに撃破するよう注意します、と書いた。
一方で、動画再生数はシジョー支部の最高記録を突破。
収益に貢献したとして、スロウナイフ開発担当は表彰されたらしい。
まったく、どうかしている。
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