§-6——シンとソウ
これは、
(((誰も彼も)))
(((何かの中毒なのさ)))
シンは
夜は明るい。
土の上に座って。
「はぁ? どういうことだよ」
少し小さな、ソウが、どっこいしょと座り込み、
視線の先、二重に立ちはだかる
「お前は、甘いものが大好きだろう? それも、〈
「おぉいシン! 宇宙飛行士を馬鹿にするなって! 〈
「ああ、これは失礼、そうだったな。あと地球が何回か自転したら、
「それも失礼だぞ?」
「あはは、ごめんごめん。で、あとはあれだ、あの中毒だ。恋愛中毒、ってやつだ」
「な、なんのことだか、さっぱり、だな」
「おいおい誤魔化すなって。マリだよ、マリ。彼女のことだって、なぁ?」
「はっ!? ままっ……マリがどうしたっていうんだよ! というか、なんで知ってるんだ!?」
ソウは声を荒げます。
上下の唇の
「そりゃあ、ソウ、お前のマリに対する態度を見てると誰でもわかるさ」
「う、うるさいやい! だったらシンの方こそ、一刻も早く、成人の前に、この〈
「ああ、そうだよ。だから、世の中はそういうものなんだって、誰も彼も何かの中毒なんだって、僕はたった今、言ったんじゃあないか」
この時ソウは、年は同じくも己より図体の大きな少年を、いや、己の存在をいっそう小さく見せる少年の言葉を、不思議に思います。
お手手にはびっしりと、
お手手は綺麗に、
「おいシン、開き直ってんじゃねーよ!」
「開き直ってなんかないさ。僕は単に、事実を、受け入れてるのさ。〈
「どういうことだよ」
「どういうって……例えばさ、あれを見て、何も思わないのか?」
シンは、蝶を指差します。
「あれって……蝶のことか?」
「もちろん」
「蝶が、どうしたって言うんだ?」
「観察するんだ」
「ほぉ。観察、ねぇ」
「そう、観察」
シンとソウは、下に華、上に月で、挟まれた蝶を、じっと見つめます。
すると蝶は、
——ヒュゥウゥウンン
と
「おいシン、蝶が流されたぞ」
「まだだ、まだ観察だ」
「はいはい、観察ね」
「そう、観察」
——ゥウゥウンン。
と風は止みます。
蝶も止まります。
空中静止です。
天の闇
黄色く浮かぶ
月と
仲、よろしく
「で?」
「ソウはこれを、どう思う?」
「え、どう思うって……蝶が、ヘリコプターみたく、ホバリング、している?」
「そう。ホバリング。空中で、止まっているんだ」
「だから、何? そんなの当たり前じゃ——」
の次は喰い気味に。
「足りない」
「何が!?」
「観察が、足りない」
「意味がわからない」
「ソウ、お前は背丈だけじゃなくって、お
「うるさいなぁ! 誰が
「いや、誰もそこまでは言ってない。あとあれな、『
「あっ、いっけね……バタフライ・バターフライ」
すると、ソウに釘を刺すかのように、
——サァァァァァァ
と、月の方角から、雨が降り注ぎます。
赤茶色の雨です。
「はぁもう、シンの言うことはいつも、本っ当に、意味がわからない」
「そうかい。まぁ、もっとも、この世には、隠された事実、つまりは真実が、まだまだたくさんあるんだけどね」
シンはそう、話を締めくくります。
あたかもその
——キィィィィィィン
蚊の泣くような音がします。
「「あ」」
ソウとシンは、ポケットから、ゴツゴツした塊を取り出します。
それは、さっきの音の主、〈
それは、鋼鉄製の十二面五角形立体。
ソウのまだ小さな手にとっても、ぎりぎり手乗りの大きさです。
——キィィィィィィン
〈
音は、月下の
そして、二人の子女に、こう告げるのです。
〔まもなく、深夜十二時です。よい子女の皆さんは〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます