06 悪巧み

   長束の事務所。

   高森、手を縛られ口を塞がれている。


高森 ……?


   高森、自分の状況に気づく。


高森 ……。


   高森、部屋に使えるものがないか探しながら紐をほどこうとする。


高森 ……。


   高森、ほどけずイラついて棚を蹴る。


高森 ……。


   高森、棚に置かれている瓶を見つける。

   もう一度棚を蹴る。

   瓶が落ちて割れる。

   その欠片を拾い、紐を切る。

   口を塞いでいた布も取る。


高森 全く、あの人は……。


   高森、戸に手をかけるが開かない。


高森 ……駄目か。


   高森、戸に張り紙がされてあることに気づく。


高森 「お前が目覚めるのはいつだか知らないが、きっともう何もかも手遅れだろうね。お前の大事な助手さんは私がもらっていくよ。お前といるよりずっと幸せにするからそこは安心してほしい。一週間くらいしたらそこから出してあげるよ」……。


   高森、張り紙を必要以上に細かく破り、部屋を物色する。

   茶菓子を見つけ、勝手に食べる。


高森 ……。


   高森、紙とペンを見つけると、何かを書き始める。

   途中で茶菓子も食べる。


高森 ……。


   戸を叩く音。


島津 長束さん。長束さん、いませんか。

高森 ……島津君?


   高森、島津、戸を挟んで会話する。


島津 その声は……お前、なぜ藤崎さんのところに戻らないんだ?彼女がどれだけ心配しているか……!

高森 良かった、藤崎君は無事なんだね。

島津 どういうことだ?

高森 彼女はまだ私の家にいるのかい?

島津 ……あぁ。お前の帰りを待ってる。

高森 そうか。君が来てくれて助かった。ここから出たいのは山々なんだが、生憎こちらからは開けられなくてね。

島津 は……?一体何があったんだ?

高森 話すと長くなる。君は長束さんの居場所を知っているかい?

島津 いや、ここしか。

高森 そうか。

島津 お前、どうにかしてそこから出られないのか?

高森 ここ以外に出口は見当たらないね。

島津 窓は?

高森 無理だ。はめ殺しになってる。

島津 さすがに壊すのは止めた方がいいな。

高森 国家権力でなんとかならないかい?

島津 無茶を言うな。出来ないのはお前の方がわかっているだろう?

高森 それもそうか。

島津 どうしてこんなことになってるんだ。お前らしくもない。

高森 私にだって敵わない相手はいるさ。

島津 それが実の兄だと?

高森 知っていたのか。

島津 藤崎さんから聞いた。俺がここに来たのも彼女に頼まれたからだ。

高森 一つ聞いても?

島津 何だ?

高森 君は藤崎君のことが好いている。恋愛的な意味で。そうだね?

島津 ……それがどうした。

高森 君は、彼女を幸せに出来るかい?


   島津、戸を思い切り殴る。


島津 お前ら……いい加減にしろ。何があったのかは知らないが、彼女を幸せに出来るのはお前以外に誰もいない。そのことをしっかり頭に叩き込んでおけ。二度とそんな仮定を口にするな。

高森 だが……。

島津 まだ言うか。彼女はお前といるだけで幸せなんだ。こんなにも信頼されているのに、なぜそれがわからない?

高森 ……。

島津 彼女がお前に向けている信頼は、俺に向けられているものとは違う。お前が甘受している信頼がもし俺に向けられていたら、俺は何としてでも彼女を幸せにしようとする。これは本心だ。……だが、そんなことはない。絶対に。彼女の優先順位は覆らない。それがわかっているから、俺はこうして少しでも彼女の力になれればいいと思っているんだ。お前がその役割を放棄するつもりなら、俺は誰よりも先にお前を殴りに行く。そのつもりで覚悟しておけ。


   高森、持っていた紙を握りつぶす。


高森 ……君は、本当に眩しい人だね。

島津 いいから、さっさとそこから出る方法を考えろ。何かあるだろう?お前の頭なら。

高森 そうだね。ここまで引っかき回されたんだ。長束さんにも痛い目を見てもらおうか。

島津 ……法に触れない程度で頼む。

高森 もちろん。

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