第1話 クローバー


「大好きな人はお父さん」



小さい頃、そんなことを言っていた。

私はいわゆるファザコンってやつで

お父さんが大好きすぎて

いつもお父さんの膝の上にいたり

お父さんの後をついて歩いたり

一緒にお風呂に入って一緒に眠っていた。


「将来はお父さんのお嫁さんになる」


なんて言ってたこともあったっけ

今思い返すとちょっと恥ずかしいけど

それくらいお父さんが大好きだった


でも、中学一年生のときに両親は離婚した。

理由はお父さんが鬱病になり仕事をしなくなったから

私は離れるのが嫌で泣いたりもしたけど

当時はまだ子どもで大人の事情を理解できるほど

利口な子でもなかった。


私と弟の陸はお母さんに引き取られた。

私のお母さんは不器用な人だった。

家事も得意ではないし、感情も不安定で

よく機嫌が悪いと怒鳴られたりしていた。

小さい頃、朝起きてリビングに行くと


「こっちに来るな」


と言われ父親が帰ってくる夕方まで

弟と寝室で遊んでることが多かった。

朝昼はご飯もまともに食べさせてくれなくて

弟と二人で一つのプリンを一緒に食べたこともあった。

今考えるとネグレクトのような感じだったのかもしれない

でも、お母さんは父親が帰ってくると

普通のお母さんだった。

だから父親が帰ってくるまで我慢すれば平気

そんなふうに思って生活していた。

私は、そんなお母さんでも好きだった。

だからお母さんに相手にしてもらいたくて

お手伝いもたくさんした。

でも、お母さんは私より弟を可愛がっていた。

ヤキモチを妬いて弟にいじわるしたこともあった。

そのときはすごく叱られた。


「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」


いつもそう言われて寂しかった。

でも、お父さんは私をすごく可愛がってくれた。

だから辛くても寂しくても平気だった。


でも、この日私は心の拠り所を失った。

そして、この日から私は少しずつ変わっていった。

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