父親の不器用な愛


翌朝、千穂は父親の車で隣町まで行って一緒に早めの昼食をとった。


「なあ、梨花はあんな感じで龍巳もいるから……」


「うん」


「二階に簡易キッチン作って、冷蔵庫置けば多少過ごしやすくなるか……?」


「え?いいの?……すごく助かる、と思う……」


「食品は斎藤のおばちゃんちで買えば良いし──ああ、千穂が買ったものは俺に請求するようにお願いしておくし、今日みたいに出掛けてスーパーにいってもいいし」


なら、いい。

家にお金を置いておくのは嫌だし、村にATMはないから──。

おばちゃんちで買い物させて貰えるなら、不安はなにもない。


「ありがとう、お父さん」


こんなに急に厚待遇って、大丈夫なのかな……嬉しいけど、継母は怒ってそうで気まずい。

お父さんも色々考えてくれてる──。


「ああ、でも。俺がいるときは夕飯は一緒に、だ。いいな?」


「うん、わかった」


「苦労させて済まんな。そうそう、庭の古い蔵なんだけどな、撤去しようと思って」


「ああ、開かずの蔵?」


「そう。昨日見たら本みたいのしかなくてなぁ、そのまま壊すつもりだから。5月中旬まではちょっとうるさいかもしれん」


──本か。

文献とかかな?


「あの、お父さん。友達が古い文献とか郷土史が好きで、そういうの見たがるかも」


「ん?好きにしていいぞ。どうせ捨てるんだし、役に立つ方がいいからな」


父親はコーヒーを飲みながら、ニヤリと笑った。


「──それにな、我が家は腐っても"名家様"だからな。面白いものがあるかも知れないぞ」


「ふふ、そうだね」


父親も継母に気を遣ってるんだろうな。

うちは、みんなちょっとバラバラ。

でも、キッチンが貰えるなら──。

お腹がすいて夜中に起きちゃうことも無いだろうし、貧血も治るかも。


あ、もうひとつ。

ダメ元で聞いてみよう……


「あの、お父さん。部屋に鍵、つけちゃダメ?居ない時に部屋に入られるのは嫌なの。あ、見られて困るものは無いんだけど──」


「誰かに入られてるってことか?梨花が掃除で入ってるとは聞いてたけど──」


「掃除は自分でやってるし、自分が家にいる時は掛けないって約束する。学校行ってるとか、今日みたいに出掛ける時だけ」


「ま、いいんじゃないか?千穂もお年頃ってヤツだな!」


「もう!そういうんじゃないって」


その後、千穂は最低限必要そうな鍋やフライパン、オタマなどの調理器具と一人分の食器セットを買ってもらい、夕方に帰宅した。

継母はチラリとこちらを見たが、なにも言わなかった。


──多分、私にお父さんのお金、使われたくないんだろうな。

だけど、愛梨だってお父さんの子じゃないじゃない。

『本家筋の長女』の私はダメなのに、継母の連れ子の愛梨はいいだなんておかしいもの。


どことなく緊迫した空気感で、夕食を終えた千穂は後片付けを手伝おうかと言ってみた。

結構よ、と断られたので大人しく自室へ戻った。


──文献あるかも、ってRAINしよう。


▶こんばんは。うちの蔵、壊すみたいで中に文書があるみたいなんだけど、見る?


数分後、タカミオから返信が来た。


▶見たい見たい!ゴールデンウィーク中に片付けってことかな?


▶どうせ捨てるから役に立つ方が良いって。持っていって良いって。


▶もったいないね。明日大丈夫そうなら、見に行っていいかな


▶うん。じゃあ、お昼過ぎに


▶OK



────良かった、気まずくならなくて。


わかってる、自分が色々気にしすぎな性格なのは。

だけど、今年に入ってから本当に色々あるんだもの──


それに、行きたい高校に行くには勉強も頑張らないとだし。



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