第2話 COLLECTABLES

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1.葬儀

冷たい雨の降る午後だった。

私はスカートについた雨粒を払い、ハンカチを取り出して手を拭うと、小さくため息をついた。

玄関ホールは吹き抜けになっているが、湿っけた空気がどこか息苦しい。

目の前には人の列ができていた。大柄小柄、笑顔泣き顔、金持ち貧乏人、等々。

共通点がひとつだけあって、その全員が生者だということだ。

ごく当たり前なことに気づくと、私も大人しく弔問客の列に並んだ。


壁に飾られたレリーフをぼんやり眺めていると、抑制の効いた声がどこからか聞こえてきた。

資産価値はどうだとか、遺産管理人が選任されたとか、相続に関する話題で、親族だろうか。嫌な話だ。


一階奥のひときわ大きな広間に、豪華な祭壇はしつらえてあった。

祭壇の正面には椅子が並べられて、すでに前から三分の二ほど埋まり、式典前のざわついた雰囲気が広がっていた。


「こんな日じゃなくても……」 とぼやく声が聞こえた。しぶしぶ参列する故人の知人かもしれない。

あるいは私と同じように、本来はここにいる必要のない人だろうか。


私は目立たないように後ろの席へ向かい、あたりを軽く見まわしてから腰をおろした。

軽くあくびをして静かに目を閉じると、断片的な記憶が浮かんでは消えていった。


2.ギア

沼の岸辺に立ち、足を水に浸す。

ひんやりとした感覚が広がり、ゆっくりと引き込まれる――

意識と空想の境目をただよい、深みまであと一歩の、微睡の中にいた。


その先は現実と表裏の、無意識の世界だ。

記憶から切り抜かれた実際の場面や人生において繰り返される象徴的なモチーフは、曖昧な輪郭を帯びながらも無意識の底で絡み合い、ひとつの物語を紡いでいく。


運がよければ、目覚めた後もその記憶は残っている。

そしてふいに、胸の奥を締めつけるように、激しく感情を揺さぶることがある――


@ @ @


正直に言うと、ほとんど眠りに落ちていた。

そうした折に突然声をかけられたので、私はハッと息が止まりそうになった。

「知りあいでしてね。彼とはコレクター同士で」


声のするほうに目をやると、ホーデミニオン(Horde Minion, 小鬼風の怪物)似のずんぐりとした、五十がらみの中年男が座っていた。

ギョロ目で青白い顔色、猫背でなで肩。首と手足が異様に短い。

ローブの裾は床に引きづられて、斑の黒いしみができていた。


声の主は私に話しかけたらしく、手に持ったドーナツの袋を差し出していた。

私は礼を言って、ひとつつまんだ。

ドーナツは冷めていて味気なく、ぼそぼそした歯ざわりだった。


ぼそぼそした中年男の声がした。

「ギア、 と言っても若い方は興味ないかもしれませんが……」


@ @ @


ミュージックギア(Music Gears, アナログレコード風の音楽アイテム)。

"音を奏でる歯車"は、気軽に楽しめる娯楽として、一時期広く家庭に普及した。

当時、私も何枚かのギアと再生機を所有していたが、どうやら手に入れるだけで満足してしまう性質があるらしい。

今ではほとんど聴くこともなく、部屋の隅で埃を被っている。


ミュージックギアの名付け親は、王都の細工師だった。

形状を歯車に見立ててそう名付けたそうで、簡単にギアと呼ばれることが多い。

実際には薄い円盤状をしていて、見た目からは手のひらサイズのお皿を想像する。


くだんの細工師が、ギアの表面に未知の情報が刻まれていると発表したのは二世代ほど前の話。

それをきっかけに、調査と研究が盛んに行われ、やがて情報を音として取り出す(再生する)技術が確立された。

音楽を楽しむ流行はその副産物として生まれたらしい。


「彼は、ギアの著名な蒐集家しゅうしゅうかでもありました」

中年男はそう言うと、故人の業績について語り始めた。


ギアは普通と希少に大別されるが、この違いに初めて気づいたのは故人だという。

その調査とカタログ編纂にも携わり、ギアの体系化に貢献した人物だった。


調査には長い時間が必要だった。

今では発見されたすべてのギアが分類済みで、ほんの一握りのギアだけが希少とされている。


ふと、疑問が湧く。

普通と希少の違いは一体何だろうか?

中年男の説明によると、一般家庭に出まわっているのは普通のギアで、それらは音が鳴るだけ。

"本物"の、希少なギアは、再生された音の中に未知の"何か"が含まれているらしい。

"何か"とは?

専門家はその何かを"メッセージ"と名付けて長年にわたり研究し続けてきた。

それについては、今でも明確な答えが導き出せていないそうだ。


この捉えどころのない姿こそがギアの核心だと、ギア・コレクターは考えていた。

漠然とした曖昧さこそが、ギアの持つ魔術性や神秘性を形作る源なのだという。


@ @ @


「それで……彼のコレクションは、どれくらいか想像つきますか?」


「どうだろう? わからないなぁ」


「全部で十万種類のギアが存在するとしたら、どうですか」


十万種類! 想像よりずっと多い。頭の中で計算して、九万五千、九万八千と回答した。


「さらに、もっと」


「じゃあ、十万枚?」


「そう! すべてのギアを所有していると言われていました」 ただし、と言葉は続いた。

「実際には欠けているんです……一枚」


「欠けている?」 私は思わず訊き返した。


「唯一無二の蒐集家でも完璧には揃わなかった。何十年かけて探し集めても、一枚だけ手に入れられなかった」


「へぇ」

欠けは最後まで埋まることなく、ついには時間切れを迎える――すなわち死だ。


「たった一枚、"それ"だけがどうしても……。ねえ、心情を想像できますか?」


「……ずいぶんがっかりしたでしょうね」


「その様子は、控えめに言って、気が狂わんばかりでした」


そう述懐するホーデミニオン似の横顔を、私は興味深く眺めた。

この中年男も、狂ったギア・コレクターの同類だろうか。

こういう人種の心理を一括りにして語るのは難しいが、結果的には人生をより困難な方向に導いている気がする。

だがそれでも、収集せずにはいられない。理屈では割り切れないのだろう。


「ですから、 それ"を手に入れたという噂を聞いて、飛び上がりました」


「手に入れた――」 噂だって?


中年男はすぐに会いに行き、見せてくれと頼んだ。


「ですが開口一番、彼はこう言ったんです。『それは永遠に、地獄の炎の下だ』 と」


それはどういうことでしょう? と中年男が短い首をかしげた。

私はそれに答えられず、口の中に残るぱさついた感触が気になり始めた。


中年男は、なおも話を続けた。

対照的に私はじっと黙り込んだ。察しの悪い私でも、この話の行く先は想像つく。

ひやりとした汗が背中を伝った。


「そうだ。自己紹介がまだでした」

中年男は懐から店で配られる名刺のようなカードを取り出した。

私はそのカードの表裏を眺めながら、面倒なことになったと思った。


「どういう経緯かわかりませんが……」

中年男はそう言った後、わざとらしく沈黙した。


どこか遠いところから声が聞こえて、おごそかに儀式の開始を告げた。

顔を上げると、絢爛豪華な長衣を身にまとった祭司が壇上に向かってゆっくりと歩を進めるのが見えた。


それをぼんやりと眺めながら、私は先ほどの言葉について思いを巡らした。

――それは永遠に、地獄の炎の下だ


炎に焼かれ続ける生者と死者。

拭えない過去の記憶と手の届かぬ場所。

そして、"老人"の心に宿る執着と悔恨。


対になる事柄が複雑に絡み合い、わかちがたく結びついている。


広間ではよく通る声で、祭司の説教が始まった。

すべての死は救いである、とありがちな台詞から始まり、すべての罪から清められ、天に召され、そして安らかな休息……うんぬん。

格好だけ整えた偽祭司ではあるまいなと疑うが、そんな訳ないと思いなおした。


説教の間じゅう、燭台の炎がちらちらと揺れて、祭壇に黒く長い影を落としていた。

目に映るものすべてが謎めいていた。


それらは何か繋がりを暗示しているように思われたが、明確な答えにはたどり着かなかった。

しかしながら、その想像がきっかけとなって、深く沈められた過去の記憶が静かに蘇り始めた――古いメッセージを再生するように。


中年男はじっと私を見つめていた。一瞬も身じろぎすることなく。

その目は肉体を易々と突き抜け、私の心に秘めた秘密を暴こうとしているようだった。

やがて確信に満ちた声で告げられた。


「"それ"を、あなたが持っているんですね」


3.回想

動物調教(Animal Taming, テイマーの必須スキル)の奥義は "あと一歩、歩み寄ること" だと、昔読んだ本に書いてあった。

がっかりして、私はその本を放り投げたのを覚えている。

そりゃそうだろう。

調教師は誰でも知っている。離れすぎていては飼いならせないことくらい。


そもそも奥義という代物は言葉で簡単に伝えられるはずもない。だまされたのだ!

けれど、ずいぶん後になって、この言葉の曖昧な、隠されている部分に気づいた。

ふとした瞬間に、まったく違う方向から物事を理解することがあるのだ。

そしてその気づきが本当に大切なのだと、相棒との旅の中で思いがけず悟った。


@ @ @


相棒のスライムは風変わりな奴で、精霊(Elemental, 自然や元素に生命が宿った存在)を殴るのが大好きだった。

私はその度にしぶしぶ付き合うのだが――何年か前、私達は火山に棲む精霊を調査するために、イオドーン(Eodon, 新世界のひとつ)へやってきた。

そこで関わった出来事について思い出した。


私達は火山へ向かう途中、辺鄙な村に滞在することになった。

宿屋は村はずれにあって、もとは民家だったようだ。

玄関をくぐると小さな食堂があり、その横に台所、奥にトイレがあった。二階には部屋が四室ほどあった。


朝夕の食事は近所に通いの料理婦がいて、あらかじめ頼んでおけば用意してくれた。


私は預かった鍵で扉を開け、部屋に入るとすぐに荷物を放り投げた。

このまま朝まで寝てしまおうと考えた。うっかりして夕食を頼み忘れたのだ。寝れば空腹もまぎれる。

薄汚れた旅装のままベッドに飛び込んで、しっかりと目をつぶった。


@ @ @


翌朝になり食堂へ下りていくと、二人連れの男性客が椅子に座って、用意された朝食を食べていた。

軽く会釈して席につこうと考えた瞬間、私は大事なことを思い出した。朝食の用意も頼み忘れたことに!

村には朝から開いている飯屋はなかった。

このままぼんやり過ごしても仕方ないので、調査地の下見へ行くことにした。


火山に続く田舎道を歩いていると、まぬけ面のスライムが後ろをついてきた。どこかで適当に食事してきただろう、私の相棒だ。

宿屋に厩舎がなかったので、相棒はしばらく近所で野宿だった。

野宿する場合に大切なのは、他人に襲われないようにすることだ。

いつでもどこでも、旅をしている私達が一番警戒するのは人間からの悪意なのだ……。


@ @ @


青空に映える大きな火山を前に「オォー」と、ため息がでる。この景色は壮観だ

昔の作家が『火山行は夏を旨とすべし』 と言った。火山は夏が最高という意味で、今それを実感している。


視線を山の中腹に移すと、洞窟の入り口が見える。

そして、目的地に近づくにつれて地熱で熱くなる。想像以上だ。

熱くて暑くて仕方がないので、思わず途中で引き返した。


スライムを枕にしてふもとで休んでいると、急な土砂降りに見舞われた。遠くで雷鳴が聞こえたので、私達は早々に宿に引き上げることにした。

明日は火山エレを隅に引っ張ってきて、殴るか。熱さは我慢するしかないのだろう。


@ @ @


ずぶ濡れで宿屋に戻ると、台所でおばさんが料理の下ごしらえをしていて、ようやく食事を頼むことができた。

「夕食はもうじきできるよ。お茶でも淹れようかい」


私は礼を言って、椅子に腰かけた。

窓越しに灰色の空を見た。止まない雨音を聴きながら、なんとなしに「あの二人連れは?」と訊いた。


「あの人らも火山に用があるらしいさ。少し前から泊ってるんだわ」


「へぇ……」 今日どこかですれ違ったのだろうか。

彼らも観光かねぇ。火山巡りはやはり夏に限る、ということかな。


@ @ @


翌日も朝から火山を目指す。私の目的は、観光ではなく調査だ。

朝食の堅パンを懐に入れて、さっさと宿屋を出た。


火山の中腹にある洞窟の入り口をくぐり、死角に移動して目立たない場所に陣取った。

というのも、見知らぬ人間を警戒してのことで、突然後ろからザクッと斬りつけられてはたまらないからだ。


目の前にぐつぐつ煮えたぎる溶岩溜まりがあって、この世とは思えない景色に少し息苦しくなる。

相棒も先ほどから落ち着かず、吹き出す熱気に興奮してぶるぶる震えている。


一瞬の自失から回復すると、私達はすぐに行動を開始した。

計画に沿って火山エレを隅に引っ張ってきて、延々とスライムで殴った。

相棒が楽しそうだったので、早く帰りたいのをぐっと我慢した。


@ @ @


夜、宿に戻ると、食堂では例の二人連れが食後酒を飲みながらくつろいでいた。

片方は病的に痩せた老人で、高級そうなローブ。身なりから偉そうな人物だとわかる。眉間に刻まれた皺が気難しそうな印象を与える。

もう一方は青年で、ハンサムな長身。女性的なすらりとした細身で色白な肌。こちらも貴族か金持ちの身なりだった。

どういう二人組だろうか。


テーブルの上には自分達で持ち込んだ酒瓶が並んでいた。

年若い青年のほうが私に気づいて声をかけてきた。


「貴方もこちらで一杯どうですか」


「お言葉に甘えて」

私は上品に返事した。 彼に訊きたいことがあったので、この誘いは私にとって好都合だった。

青年が右手を自然に差し出し、私もできるだけ感じ良く握手に応じた。


まず最初に彼が自己紹介した。 初めて耳にする、めずらしい姓だった(以下、M青年と呼ぶ)。

そして、彼の隣に座る陰気そうな老人を紹介した。


後で判ったことだが、老人のほうは偽名だった。

私が名乗る番になると、M青年が手で制した。


「実は想像がついているんです。F先生でしょう?」


Fとは私のことだが、先生とは面映ゆい。

「洞窟でスライムを連れているのをお見かけしたんです。本の出版のために調査を?」


「ええ。まぁ」

時折感じた妙な視線は、彼のものだったか。


M青年が空いたグラスにお酒をついでくれた。

めったに口にできない高価な酒もあって、夕食をつまみに二杯三杯と杯が進む。


まさか泥酔させて、身ぐるみを剥ごうというのでもあるまい。

私は何も持っていないのだから……。


ふと、草むらで野宿する相棒のことが頭をよぎったが、すぐに忘れた。

どうせ、あっちも楽しくやっているに違いない。

聞き上手なM青年にスライムの生態を講義しているうちに、グラスで五杯十杯といただいてしまった。

完全に泥酔状態だ。


「スライムは昔、分裂したんだぞー」と叫んだりした。

さいわい、服を脱いで歌ったりはしなかったようだ。


そうして、今酔っ払っているのは私一人だ。

タダ酒に浮かれすぎたせいで、このあたりから妙な雰囲気になる。

「それで。火山エレですが、なにか……めずらしいものはドロップしましたか?」


「いいえ、何もー」


めずらしいものぉ? と赤ら顔で訊き返す。

火山エレのドロップは宝石も出るが希少というほどではない。

私の口調が癇に障ったのだろうか。

そのとき初めて、老人の顔色が変わった。

M青年もたちまち渋い表情になった。今までの彼らしくない、汚い単語を思わず口走りそうな勢いだった。


男達二人は顔を見合わせた。視線を交わし、何らかの意思疎通が行われた。

その沈黙の間に私はグラスを空にして、手近な瓶からお酒をおかわりした。

「あーずいぶん酔ったなぁ、でもまだ意識は正常だぞ」 と、わりとどうでもいいことが頭に浮かんだ。


M青年が言った。

「私達も、火山エレメンタルを狩るために来たんです」

話をするのはM青年の役割で、老人は相変わらず黙ったままだった。

私は形だけ姿勢を正して、聞く態勢を整えるふりをした。


「その……めずらしいドロップ目当てです」


「へぇ」あまり知られていないアイテムが出るのか。


M青年はテーブルの上の酒瓶を隅によけて、場所をあけた。

そこに置かれた古い本は、なんでもM青年の祖父の日記帳だそうな。

彼は慣れた手つきでページを開くと、これと指差した。


「挟まっていたメモの、この記述です」


私は焦点の定まらない目でじっとにらんだ。

メモにはこう書かれていた。


『イオドーン、火山、音楽、手に入れた』


イオドーンの火山で音楽?を手に入れた、と読むのが自然だろうか。複雑な暗号でなければ、だが。


「それで。一体何を手に入れたのでしょうね」


「生前に祖父が一番大切にしていた、ギアではないかと」


祖父? 私は老人のほうを見るが、そういえば最初に紹介されたな。この老人は、M青年の祖父の、古い友人か。


M青年は小さくうなずき、あらたまって私に尋ねた。

「先生はギアをご存知ですか?」


「ええと、ミュージックギアのことですね?」


コレクター同士の交流を通じて、今でも取引が行われていると聞くが……そうか。

「日記の著者、あなたのおじい様もコレクターだったんですね」


「そうです。そして祖父は、世界にたった一枚しか存在しないギアを持っていました」


ほぉ、世界にひとつかそれは国宝級だ。


M青年は、日記やメモ、老人の記憶を照らし合わせた。これらを総合すると――

「どうやら、この地で手に入れたものではないかと、推測した訳です」

ふぅむ……私は気づいたありきたりな疑問を口にしていた。


「仮に、火山エレのドロップだとして、それは希少なギアになるんでしょうか?」


火山エレメンタルは たしかに強いが、スライムで殴れるくらいだ。

めったに出ないギアだとしても……私は言葉を付け足す。


「さっきのメモ、『音楽を使って、何かを手に入れた』 のかも。そのほうが自然な……」


「それはなぜです?」


「普通、今回のような手がかりを残すとき、"何を"よりも "どのように"して手に入れたか、のほうが重要でしょう?」


実際そのせいで、二人は間違った道を進んでいるように見える。

「あなたのおじい様もそう考えるのではないですか?」


音楽を手に入れたという解釈は不自然だ。ギアを手に入れたと はっきり書き残すなら、まだわかるが……。


酔いがまわり、少々饒舌になっていた。

私はこのとき、彼らは強い願望に引きづられ、自分達の望む方向へ都合よく解釈したのだろうと考えていた。

それはよくある、思い込みによる錯誤で、誰もが陥る罠だ。

しかしそれこそが、私の思い違いだった。


M青年も、そのくらいのこと気づきそうなものだが……そう考えた瞬間、先ほどから引っかかっていた違和感の正体に気づいた。

そうか。どこか不自然で、作り話めいているんだ。


私とM青年がやりとりを交わす間、老人の疑り深い眼差しは、じっと下を向いたままだった。


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