早紀(47)
夕食後、洗い物を片付け終わると21時を回っていた。
大学生の長男は夕食を済ませてから深夜のバイトに出かけ、次男は塾から帰ってきて夕食を済ませると、すぐに自室に引き篭もってゲームを始めた。
帰りが遅い夫のための夕食は、すでにテーブルに用意してある。
束の間、自由になった私はリビングのソファに身を投げ出し、貴子から届いたLINEのメッセージを読み返して暗澹たる思いを新たにした。
土曜日、17時に恵比寿駅西口のエビス様の前で!アシストよろしく(^_−)−☆
貴子とは大学時代、イベント系のインカレサークルで知り合った。
昔から気が強く自己中心的で、サークル内でも同性からは嫌われていたが、押しの弱い私はロックオンされ在学中は何かと付き纏われた。
学校を卒業してからは、つい最近まで音沙汰もなかったのだが、昨年のサークル同窓会で会ってLINEの交換をさせられてしまった。
貴子は学校を卒業してすぐに、年の離れたベンチャー系の社長と結婚したので、サークルの同窓会には昨年初めて出席したそうだ。
その社長と数年前に離婚したそうで、今は結婚相談所やマッチングアプリを活用して再婚を目指しているという。
「男女2人組同士でマッチングするサービスで、いい男とマッチングしたので男に会うのに同伴して欲しい」
LINEを交換してすぐに、貴子からそんな連絡が入った。
「私は既婚の身なので、他を当たって欲しい」と拒んだが「助けると思って、一回だけ付き合って」と言われ、情けをかけた結果そのままズルズルと付き合わされている。
結局、今まで3回それぞれに違う二人組の男性と会っているが、いずれも相手は私たちよりは年若く、明らかに「遊び目的」で会っているので、貴子の再婚相手になりそうな男性とは出会えていない。
私は夫に隠れて貴子が利用しているマッチングアプリに登録し、貴子がマッチングした男性たちとやり取りをして、会う予定の日には「学生時代の友人と会う」と夫に嘘をついて家を出た。
それでも、相手の男性たちに会う時は少しでも若く綺麗に見える様にと、いつもより入念に化粧をしている鏡の中の自分を見ると情けなく、いつも自己嫌悪に苛まれる。
恵比寿駅、貴子はいつもの様に遅れてくると、
「早紀、こないだと同じ服じゃない?それ勝負服か何かなの?」
と、待たせた事を気にする様子もなくヘラヘラと笑って私の服装をあげつらってきて、私は心底うんざりした。
子供2人抱えた専業主婦が、そんなに服にお金なんか掛けられない事くらい分かりそうなものだが、そういう相手を慮る気持ちは貴子には無い。
そういう時、自分では不機嫌さをかなり表情に出しているつもりだが、私はナメられているのか、貴子はまったく私の顔色など気にはしない。
今日会う予定の2人組は珍しく私たちと同年代の40代で、有名商社に勤めるAというイケオジ風の男と、Bという自営業の建築士で、貴子はそのうちの「A」という男性を狙っている。
男性たちと待ち合わせたお店に着いた時には二人はもう店内で待っていて、私たちが遅れた事は気にはしていない様子であったが、私は申し訳ない気持ちで恐縮した。
私たちが到着してから1杯目のドリンクが運ばれてくる頃には、貴子は持ち前の陽気さと笑顔で既に場を支配していた。
「Aさんは、お休みの日は何されてるんですか?」
貴子はお目当てのAに対してあからさまに積極的に話しかけるので、建築士のBは仕方なく私の相手をする事になった。
他愛もない話をしているうちに、Bが私の左手を指差して
「あれ?もしかして早紀さんご結婚されているんですか?」
と聞いてきた。
私は店に入る直前に貴子から指摘されて指輪は外したけど、指輪の跡がクッキリと指に残ったままだった。
貴子が横で私を睨みつけているのは感じられたけど、私はこういう時に咄嗟のウソをつくのが苦手だし、そもそも私は彼らと交際を発展させたい訳でもないのでウソをつく必要も無いと思い、
「すみません…」
と既婚であることを白状すると、彼らは顔を見合わ恐縮した様子で告白した
「いや、こちらこそすみません。実は我々も結婚してまして…」
「結婚してると、なかなか女性との付き合いも少なくて…独身と偽ってマッチングアプリを試してみようって、コイツが言うんで」
その後、男二人は「コイツが悪い」「いや、オマエが」と、まるでじゃれ合うように責任をなすりつけ合い始めたが、貴子のあからさまに大きな溜息を聞いて、ぴたりと口を閉ざした。
「独身の女が居てもお邪魔でしょうから、後は既婚者同士で3Pでもなんでもして楽しんでください」
と、貴子は怒りを露わにイスを蹴って、店を出て行ってしまった。
私は貴子を追いかけようと立ち上がったが、お店の支払いを男性たちに全額払わせるもの気が引け、戸惑っていると
「早紀さん、良ければちょっと飲んで帰りませんか?我々も、ヘンな気は起こしませんから」
とAが私に言ってくれ、Bも「どうぞどうぞ。飲み直しましょう」とわだかまりなく気さくに接してくれ、私は改めてイスに座り直した。
私が、貴子の非礼を二人に詫びると、
「早紀さんは、無理矢理あの女に付き合わされてた被害者なんでしょ?わかりますよ。あの人ものすごい自己中でしたから」
「遅れてきたのに謝りもせずAに色目を使うなんて、僕もあの人には正直ムカついてました。今日は早紀さんも一緒に鬱憤を吐き出しましょうよ。」
と二人は私の苦しい立場を理解してくれ、その後は貴子の悪口をメインに、お互いのパートナーに対する愚痴や、子供の話などで盛り上がった。
マッチングアプリで出会った男性と過ごした時間で、これほどまでに楽しいと感じたのは初めてだった。
3時間ほどで店から退店を促され、二人は私を恵比寿駅まで送ってくれた。
「早紀さん。よかったら今度また貴子さん抜きで飲みに行きましょう。早紀さんのママ友さんとか誘ってご一緒に」
と言ってくれ、私は「是非、そうしましょう」と言って別れた。
この先、AやBともっと深い関係に発展するかもしれないが、貴子という厄介な縁に付き合わされるより、よほど自分の気持ちに正直になれるはずだ。
私はこれを機に、貴子との縁をキッパリ断ち切ろうと心に決めた。
次の日、目覚めると案の定、貴子から身勝手なメッセージが届いていた。
昨日はまんまと騙されてサイアク〜 (-_-;)
やっぱオヤジはダメだね〜 ( ´Д`)y━・~~
早紀はあの後、あのオヤジたちとホテルでも行ったの?
どっちの男が良かったか、詳しく聞かせてね〜(≧∇≦)
今度は、もっと若いイケメン独身男子を捕まえるから
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
またヨロシクね (^з^)-☆
私は、貴子との腐れ縁に終止符を打つための返信文を送信した。
あの後、二人の奥様が現れて修羅場になりました。
奥様たちは、私を不貞行為で訴える。と言っていました。
訴えられたら、私の家庭は終わりです。
今日、これから弁護士さんに相談に行きます。
貴子の名前は出していないので、このメッセージを見たら私の連絡先を削除してください。
私も貴子が訴えられない様に連絡先を削除して、二度と連絡しません。
このメッセージの内容はウソをつくのが苦手な私のために、昨晩あの二人が笑いながら考えてくれたものだ。
どこまでも身勝手な貴子は、自分が責任逃れする事だけを考え、連絡先を削除して今後私に接触してくることはなくなるだろう。
私は昨夜作った3人だけのグループLINEに、貴子にメッセージを送った報告と改めてお礼のメッセージを送った。
貴子に絡まれていたこの数ヶ月はとてもストレスフルだったけど、おかげで自分では思いもよらない交流が生まれ、私は久々に心が躍っていた。
── これからはもっと、上手にウソがつけるようにならないと…
私は顔がニヤけない様に注意して、いつもの様に夫の朝食を作り始めた。
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