麻美(50歳)
もうどうにもならないので、私が詐欺に遭った話をここに吐き出します。
私は都心近郊に建つ戸建てに、電機メーカーに勤める14歳年上の夫と、大学受験を控えた高校生の息子と暮らしています。
上の娘は3年前に短大を卒業し、就職が決まるとすぐに家を出て一人暮らしを始めました。
表向きは何の問題もない家庭ですが、夫の暴力の為に家族の関係はずいぶん前から壊れていました。
夫はお酒もギャンブルもやらないですが、ひどい癇窻持ちで、息子が大人と変わらない体格に育つまでは、私に対して手をあげる事もありました。
今は息子が私の味方になってくれるので、私に対してあからさまに暴力を振るうことは無くなりましたが、言い争いというか一方的な言葉の暴力は日常茶飯事です。
その理由は、私の食事の用意が遅いとか、机の上に請求書が置きっぱなしだとか、着ようと思った服が洗濯されていないとか、ホントに些細な事で苛烈に詰られます。
夫は子供たちには手をあげませんでしたが、家の中で始終そんな言い争いが絶えないので、娘は就職し自立出来るようになると逃げるように家を出て行きました。
息子も、大学を卒業したらすぐにこの家を出ていくと言っており、
「母さんも、あんな男捨てて出て行った方が良いよ。」
と、ひとごとの様に私に助言する始末です。
私も、子供たちが居なくなった家で夫と二人で暮らす事など考えられず、ファイナンシャルプランナーの仕事をここ10年ほど続け、離婚に向けて貯金をしてきました。
夫は、あと1年で定年を迎えます。
夫が定年を迎えたその日に、離婚届けを突きつけ家を出ていく。
私はその”サプライズ”だけを楽しみに日々を暮らし、コツコツ働いて積み上げた資産は800万円ほどになっていました。
いよいよ夫の定年が近づき離婚する未来が現実的になってきた頃、私は不意に残りの人生を一人で暮らすことに対して漠然とした不安を募らせました。
その頃は私もまだ40代で、還暦を迎えシニア向けのサービスを利用する夫よりも全然若く、まだまだ花を咲かせられると思っていたので、マッチングアプリに登録して幾人もの男性と交友を持つようになりました。
「大人の関係」の見返りに”援助”を受けとって離婚に向けた資金を増やしながら、残りの人生を寄り添い合える新たな人生のパートナーを探すのは「一石二鳥」だと思えました。
昨年の二月ごろに、私と同じように離婚を考えているという、小さなIT企業の社長と出会いました。
その男は、年齢は私より少し下の46歳で肉付きの良い、いわゆるオジサン体型でしたが、肌は驚くほど綺麗でシワも少なく、いつもは上げている前髪を下ろすと大学生の様にも見える人でした。
彼の女性に対する気遣いは見事で、ベッドの中でも私の身体を常に気遣いながら私を快感の果てに誘い、この歳になるまで味わう事のなかった性の悦びを私に教えてくれました。
そして、彼の気弱で優しく思える仕草や言動は、暴力夫と長年暮らす中で傷だらけになっていた私の心を芯から癒してくれました。
その男とも、最初のうちは”援助”を受ける関係でしたが、私から彼との関係を求めて何度も逢瀬を重ね、その度にお互いの離婚に向けた計画を話し合ううちに、いつしか二人で歩む将来を見据えた話を進めるようになりました。
私は不特定多数の男性と会うのをやめ、彼と実際に一緒に住む家を内覧に行ったり、現在の収入や離婚に向けてお互いの資産状況を確認し合うほどの間柄になり、彼は私にとっての希望の光となっていました。
私は、今の夫と営んできた家庭生活にホトホト疲れていたので、彼と一緒になっても、いわゆる彼の「妻」として炊事洗濯などをするつもりはなく、経済的にもお互いに自立し対等な関係を築く事を彼に望み、彼もそれを受け入れてくれました。
ただ、それを望んだ際、お互いの自己資産に差があるのが気がかりでした。
彼と一緒になっても、私が彼の負担になる事は避けたかったのです。
そのことを彼に相談すると「暗号資産への投資」を勧められました。
彼自身その投資で資産を倍以上にしたらしく、私は半信半疑ながらも「試しに」ということで、とりあえず手持ちの100万円を彼に預けました。
私は、暗号資産に関する知識は無くパソコンやネットにも疎いので、口座の開設から運用まで、すべてを彼に任せきりにしてしまいました。
彼にお金を預けてしばらくすると、預けた資産が大きく膨らみ上向いていると、彼がパソコンの画面で見せてくれました。
正直、その画面を見ても私は何がどうなっているのかサッパリ分からなかったのですが、とりあえず預けた100万は200万近くになっており、グラフは右肩に上がっているのを確認しました。
私はすっかり彼を信用し夫の定年まであと1年と期限も迫っていたので、新たな人生への最後の勝負と思い、残りの資産もすべて彼に預けました。
お金を渡してしばらく経って、彼と次に会う日の予定を決めようと連絡を入れると、もう彼と連絡を取ることができなくなっていました。
私は、私と彼との関係が奥さんにバレて連絡手段を断たれてしまったのでは?と心配し、彼に貰っていた名刺にある電話番号へ取引先を装って問い合わせてみました。
しかし、その会社の社長はまったく違う人物で、私が貰っていた名刺の名前を告げても「そんな人物は知りません」と冷たくあしらわれました。
その時になって初めて、私は自分が詐欺に遭ったのだと気付きました。
慣れぬパソコンを操作し、彼に作ってもらった私の暗号資産の口座を見ると、最初に預けた分だけは残っていましたが、かなり目減りしていました。
それからしばらく、私は何も手が付かず絶望と暮らしていました。
「オマエは、しばらくゆっくり休んだ方がいい」
と、あの私を虐げ続けていた夫が私の体調を気遣うほどに塞ぎ込み、一日中ベッドから起き上がれなくなりました。
夫に復讐するためにコツコツと貯めてきた貯金を失い、離婚後に人生のパートナーとなるはずだった男を失い、このまま夫に離婚を突きつけても私はもう一人で生きてはいけません。
あの男と出会って1年と3ヶ月。
何度も会って、ホテルのベッドで私を抱いて癒してくれたあの男の温もりも、二人で共に暮らす未来の話も、一緒に手を繋いで出かけた時間も、すべてが偽りだったとは今でも受け止める事が出来ずにいます。
こっそり警察にも相談に行きましたが、よくある手口の様で失ったお金が戻ってくる可能性は低く、また随分と時間が掛かるだろうとのことでした。
それより被害届けを出せば、自分がマッチングアプリを利用して不倫相手を探し、離婚の準備をしていたことが確実に夫にバレてしまうでしょう。
私はこの屈辱と絶望を誰にも話すこともできず、一人で抱え込んだままこれから続く地獄の様な日々を生きていくしかない様です。
夫は今日も、いつもの通りリビングを占領して、自分の見たいテレビ番組を一人で見ています。
私は、しばらく開いていなかったマッチングアプリを開いて、以前と同じように男性を求める募集告知を投稿しました。
この歳になって、マッチングアプリで男性の援助を求めるのも恥ずかしい話ですが、あの男に抱かれた時に感じた心の癒しが、今も忘れられません。
私を救い出してくれる男性が何処かに居るのでは?と思うと、マッチングアプリでの出会いが、今の私にとっての唯一の希望になっています。
こんな私のこと、皆さんどう思いますか?(長文すいません)
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