07-9・喧嘩を売られたがどういうわけか……

あの夜、マーリン校長が現れ、「君たちの師匠を連れてくる」と言ったのはいいのだが……。

実際に俺たちの師匠になったのは――


「どうも、私はマー……いや、いかんいかん。マルセルだ」

「マルセル殿、よろしく頼む」

「マルセル様は確か……」

「ああ、ミステリアスで神出鬼没な3年生だ」


自分で言うのか。

内心ツッコミつつも、驚きは隠せなかった。

何せ、あのマーリン校長から直々に教えてもらえることになったのだ。

しかも、若い頃の姿で。

魔法で大幅に若返ったその姿は、漆黒に銀のメッシュが混じる長めの髪を後ろで束ね、瞳は深い青とも灰色ともつかない色をしている。

普段は細めの目が、冷静かつ鋭い光を放ちながらも、どこか未来を見透かしているような奥行きを感じさせる。

痩せ型ながら引き締まった体つき。

雰囲気ががらりと変わっているので、誰も本人だと気づかないだろう。

なぜ、俺がマルセルの正体を知っているかって?

それは、ロイのルートで彼に出会ったからだ。

まさかこんな展開になるとは思わなかった。

本当なら、庭師のヴィクターに教わりたかったのだが……。


「それでは、準備運動から始めよう」


俺たちは揃って「はい」と返事をし、こうしてマーリン校長の、いや、マルセル様の特訓が始まった。

それが、こんなにキツイものだとは思いもしなかった。

まずは、体内を巡らせるマナを安定させるため、ひたすら初級魔法を撃ち続けるマルセル様の攻撃に耐える訓練。

これがすんごくしんどい。

延々と魔法を浴びせられ、その後は風魔法の対策講義と模擬戦。

さらに、マーリン校長が風魔法と剣を組み合わせ、副会長セドリック様と同じ戦闘スタイルで挑んでくる。

日が昇る頃にやっと終わったが、俺たちはすでにボロ雑巾のような気分で講義を受ける羽目になった。


「眠い……」

「わかるが、頑張ろうルシェル」

「はい、ダ……寝てるな……」


横を見ると、ダミアンは姿勢よく腕を組んだまま目を閉じ、堂々と眠っていた。

羨ましい限りだ。

そう思った瞬間、チョークが飛んできた。


「たぁ!?」

「すんげぇ……」


寝ているはずのダミアンが、寝たままチョークを避け、後ろのクラスメイトに直撃。

目撃した生徒たちの間に感心のざわめきが広がる。

それからもダミアンは、移動中は起きているものの、講義中はほぼすべて眠り通した。

結局、一日中寝て過ごしたのだ。


そして明日はいよいよ星冠決闘。

その夜、感情をあまり表に出さず、常に落ち着いていて、時に皮肉めいた笑みを浮かべるマルセル(マーリン校長)が、静かに俺たちを待っていた。

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