07-6・喧嘩を売られたがどういうわけか……

予期せぬ出来事に巻き込まれた俺たちは、「星冠決闘」を挑むことになった。

学院に入学して、まだ1か月も経たないというのに、すでに2つの事件が起きている。

ひとつはジョセフの件、そして今、生徒会からの「星冠決闘」だ。

もしこれがゲームの世界なら「順当にストーリーが進んでいる」と思えただろう。

だが、展開があまりに早すぎる。

「星冠決闘」が起きるのは、たしかダミアンルートの中盤だったはずだ。


「どういうことだ?」

「本当なのか?」

「なぜ、こんなことに……」

「それは私が知りたいですよ」


俺、アレクサンダー、ダミアン、エミールの4人は同時にため息をついた。

生徒会に「星冠決闘」を挑まれたせいで、周囲の生徒たちからは冷ややかな視線を浴びている。

何しろ、生徒会長「ルシアン・エヴァハート」はイグラシオン国の王子。

つまり俺たちは、よりによって一国の王子に喧嘩を売ってしまったのだ。

頭が痛くならないはずがない。


「ルシアン様の容体はどうだ?ケイル」

「保健室に運ばれてから、まだ目を覚まされていないそうです、ローウェル様」

「……そうか」


黒豹の獣人であり、ローウェルの執事でもある「ケイル」の言葉に、ローウェルは苦々しい表情を浮かべた。


「あの……ジョセフも目を覚まさないらしいな」


その一言に、皆の表情が険しくなる。

実を言えば、俺は2人を目覚めさせる方法を知っている。

それは隣国フィリナオのエルフの王子「セリオン・アストリッド」と、アーケイン・インスティテュート魔法研究の直系、「ロイ・フォン・シュタイン」に薬を作ってもらうことだ。

セリオンの協力が必要なのは、「グロウベール」という薬草を手に入れるため。そして、その薬草を薬に精製できるのはロイだけだからである。

ロイは恐らく問題なく協力してくれるだろう。だが、セリオンが厄介だ。

彼は攻略キャラのひとりで、知識豊富な“インテリ”だが、かなりの頭でっかち。

説得には骨が折れる。

このゲームは攻略対象たちには好感度ハートというものがあって最高で10まで上げる。

本当だったら2人の好感度がハート2.5以上あれば素直に協力してくれる。

だが現状はおそらくハートゼロ。

さて、どうしたものか。


「ルシェル、どうしたの?」

「ああ……実は――」


俺は少し迷った末に、眠る二人を目覚めさせる方法を話した。


結果――


「それが本当なら、それに賭けるべきだな」

「信じるのですか、アレクサンダー様?」

「その方が可能性はあるだろう、ダミアン」

「なら、二手に分かれた方がいいな」

「ローウェル様……まさかとは思いますが……」


ケイルは嫌な予感をにじませつつ、しかしどこか期待に満ちた目をローウェルに向けていた。


「生徒会長とジョセフを助ける組と、星冠決闘に挑む組に分かれる。――いいか、みんなよく聞け」


そうしてローウェルの作戦を聞いた俺たちは、すぐに動き出すことになった。

「眠りの王子様目覚め作戦」は、ローウェル・エミール・ケイルが担当し、セリオンとロイを説得して薬を作ってもらう。

そして、俺・アレクサンダー・ダミアンは星冠決闘に挑む。

俺はローウェルたちの成功に賭けるしかなかった。

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