07-4・喧嘩を売られたがどういうわけか……
ラグナルにお茶を淹れてもらい、これまでの出来事を紙にまとめていた。
本来なら、エミールにちょっかいを出すモブキャラが現れ、それによってストーリーが進み、攻略対象のフラグが立つはずだった。
たとえば、ジョセフのようなやつがエミールに喧嘩を吹っかけて、バトルクエストが発生する……そんな展開。
だが、実際にはその役を担っているのは、俺だった。
もちろん、エミールをよく思わない貴族のクラスメイトはいる。
それなのに、なぜか喧嘩を売られるのは俺ばかり。
「なんでだ……?」
推測はしている。
エミールが俺みたいに絡まれないのは、俺とローウェルがそばにいるからだ。
そう考えると……むしろエミールよりも、俺の方が誰かに嫌われているということになる。
「……そういうことなのか?」
「どういうことですか?」
「いや、なんでもない。……そろそろ寝る」
「かしこまりました。すぐに寝間着をご用意します」
クロゼットから寝間着を取り出すラグナルの後ろ姿を見つめる。
子供の頃から身の回りの世話をしてくれていた「ラグナル」さえ、疑わなければならないのかもしれない。
――本当は、そんなこと考えたくもないのに。
翌朝——
「おはようございます、ルシェル殿」
寮の廊下でダミアンに声を掛けられた。
今日は珍しくアレクサンダーと一緒ではない。
……嫌な予感がした。
「おはようございます、ダミアン様」
軽くお辞儀をしながら、内心で思う。
やっぱりダミアンも攻略対象なんだな。
背は高く、鍛え抜かれた「しなやかな筋肉」を持つ。
髪は深い黒か濃紺、瞳は冷静さを帯びた灰色、あるいは魔力を象徴する深紅や紫。
普段は威圧感よりも気品を纏い、冷静沈着で誇り高い。
だが高慢ではなく、責務に忠実でストイックな貴族。
民や部下を見下さず、むしろ守ることを誇りにしている。
そんな姿勢の中に、ふと垣間見える人間的な優しさ。
そのギャップに惹かれるファンも多いのだ。
「お願いしたいことがある」
「なんでしょう?」
「うむ。実は私の剣の練習相手になってもらいたい」
……やっぱり嫌な予感は的中した。
「誠に申し訳ありませんが、俺ではダミアン様のお相手にはふさわしくありませんので、これで失礼を……」
お辞儀をして足早に離れようとしたが、ダミアンは無言でついてくる。
誰かに助けを求めようとしたところ、幸運にもローウェルを見つけた。
「ロ、ローウェル様!おはようございます!」
「おはよう……る、げぇ……」
眩しい笑みを浮かべながらも、口元は引きつっている。
それでも美しさが損なわれないのだから、やっぱりすごい。
「おはようございます、ローウェル殿」
「おはよう、ダミアン……」
「よかった。剣の相手はローウェル様がよいかと思います」
「な、何の話?!」
「では、いっそ二人でどうでしょう?」
ダミアンの表情は変わらないが、瞳だけが期待に輝いていた。
この状況、逃げ場はない。
そう感じたのは、きっと俺だけじゃなかったはずだ。
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