絡まれている栞は、どうやら今にも殴られてしまいそうで
栞を取り囲むように立っている若い男三人組。
センスの無い幼稚なシルバーアクセサリーをいくつも揺らしている、金髪二人に銀髪一人。凛音とルリアからしてみれば全く知らない赤の他人であるその男達だが、囲まれている彼女の脳には非常に悪い意味で彼等の容貌がくっきりと刻まれており──
「いい加減にして。本当にしつこい。あのゲームセンターでも言った通り、一生を賭けてもアンタらとつるむなんて事無いから」
ショッピングモールのゲームセンターでナンパしてきた時と同じく、ニタニタと気色の悪い下卑た笑みを浮かべる三人衆。そんな彼等には、栞の言葉に耳を傾ける気などサラサラ無く、銀髪の男が馴れ馴れしく彼女の肩に腕を回して、
「いやいや~こんな所でも会うなんて運命っしょ~!え、もしかして住みこの辺なの?」
「触らないで。てかそんな事アンタらに関係無いでしょ。教える訳無いし」
「も~、つれね~な~。あ、もしかしてまだあの時の事怒ってる?悪かったって~。もうYuzuを呼べとか言わないからさ~」
「ッ!ほんっとイラつく。まぁいいわ、もう行くから。二度と話し掛けてこないで」
しかし、その足はすぐに止まった。正確には、止められてしまった。リーダー格っぽい銀髪の取り巻きである二人の金髪の片方が、栞の動線に大柄な体格の体をねじ込んできたからだ。
「はい、逃がしませ~ん」
「ちょっとッ!
何とか男を搔い潜って前に進もうとする彼女だが、その動きに合わせて右に左にと道を塞がれてしまう。
前では無く後ろに下がろうとしても、もう一人が同じ事をしてくる為八方塞がりである。
「何なの?これ以上するなら警察に通報するから」
「それさ、前も言ってたけど……すれば?この程度で日本の警察が動くとは思えないけど」
「……っ」
完全に舐めている銀髪の男に、奥歯をギリっと噛み締めた栞。
知らない男に絡まれるなど良くある事であまり大事にはしたくなかったが、今回に関しては事が事だろう。普通に身の危険を感じるしつこさであり、何よりも面倒くさい。
「……あっそ」
高をくくっている男の言葉に、栞は冷たく一言だけ返す。そして、そのままバックから携帯を取り出した。脅しでは通用しないが、実際に通報されたら流石にこの男達もビビッてどこか逃げるだろうと、そう考えたからだ。
しかし、その考えが甘かった。
彼女が本当に緊急ダイヤルへ発信しようとしたその時、その携帯をサッと取り上げた銀髪の男。そのまま、それを明後日の方向に放り投げた。地面に叩き付けられて発した音から察するに、もうその携帯は使い物にならないだろう。
完全に常軌を逸脱しているその行為に、一瞬言葉を失って固まってしまう栞。だが、すぐに鋭利な視線で男を睨み付けると、思いっ切り声を荒げて、
「何すんのよ!?」
大の大人でも委縮してしまいそうな彼女の剣幕とその声音。
しかし、それを
「アハハッ!冗談じゃ~ん!真に受けてガチで通報とかマジ?」
「……は?冗談?」
「うんうん。てかShioちゃんクールな印象強かったから、そんな顔もすんだね~!意外過ぎてめっちゃおもろいわ~!」
「人様の物を投げ捨てて壊して……それが冗談?頭おかしいんじゃないの!?」
「反応大袈裟過ぎだって~。ほら、俺等友達じゃん?友達同士のノリ……的な?何なら新しい携帯買ってあげるから、とりあえずどっか行こ~?」
「私とアンタらが友達……?マジでさっきから何言ってんの……?」
栞は、もはや日本語の通じない男衆に、段々と本気の恐怖が心の奥底から湧き上がって、全身の血の気が引いていくのが分かる。
IQが二十違うと会話にならないという話は良く聞くが、もうそんな次元では無いだろう。傍から見れば支離滅裂な事を言っているこの男だが、恐らく本人はそれを本気で口にしている。だからこそ、この先何をするのか全く予想が付かない。何故なら、栞とこの男達で根本的に見ている世界や思考が違うから。
冷や汗が額を湿らせる彼女を余所に、ゆっくりと近付いて来る銀髪の男。そのまま、もう一度栞の肩に腕を回す。
「んで、どこ行く?オススメのバーとかあんだけど、そこ行か──」
「──私から離れてッ!!」
男の言葉を遮って、肩に乗せられた気持ちの悪い腕を押し退けた栞。
その際に、思いの
見るからに怪訝な表情を浮かべたその男。イラつきから歪んだ笑顔を顔に貼り付けて、出来るだけ平静を取り繕いながら口を開く。
「え、何どうしたの~?まさか、ここまで話し込んでおいて今更遊ばないとかは言い出さないよね~?」
「遊ぶ訳無い。何度も言ってるでしょ。一生つるまないって」
「ふ、ふ~ん。これでも俺等結構イケてるし割とモテるんだけどなぁ~」
「だから何?じゃあその子達と仲良くすれば?私には関係無い」
断固として拒否の態度を取り続ける栞。
そんな彼女に、これ以上何を言っても無駄だと感じた銀髪の男は、それまでペラペラと回していた軽薄な舌の動きを止めて口を噤んだ。そして、そのまま大きい溜息を吐き出して、
「あーそう。まぁお前が何を言おうが俺等に付き合ってもらうけどな」
「話聞いてる?私は──」
「おい。押さえろ」
今度は、逆に栞の言葉を遮ったその男。
汚い口から発せられた短い指示に、取り巻きの金髪二人が軽く頷いて、彼女の両腕を抑え付ける。
「な、何するの──ッ!」
「はぁ……優しく言ってる内に言う事聞いときゃ良かったのに」
「はぁ!?何言ってんの!?こんなのもう立派な犯罪じゃん!?」
「だから……?でもどうせ通報できないよ?今から服脱がしてそれ写真撮るから。ネットに載せたら大バズりするだろうな」
「ッ!!最ッ低!!」
「……あーほんとイラつくわその態度。この状況でまだそんなイキがるの?鬱陶しいし、一回痛い目見て大人しくなろっか?」
「……は?」
両腕を固められて動けない栞に向けて、指をポキポキと鳴らすその男。握り締めた拳を振り上げて、人を殴る為の予備動作を始める。その一連に一切の躊躇は無く、当然本人とて手加減するつもりなど毛頭無い。
大声を上げて助けを呼ぼうとする栞だが、恐怖心から彼女の喉は締まり切ってしまい、声にならない声が空気に溶けるだけ。
「っ!!」
もはや成す術の無い彼女が出来る事は、理不尽な暴力を覚悟してグッと目を瞑る事ただそれだけ。走馬灯のように様々な後悔が脳内を高速で駆け巡るが、もう全てが後の祭り。どうしようも無いこの状況に、最後の最後で大好きな彼の顔がふと脳裏を過って──
──助けてっ!!南君!!
「おいっ!!何してんだよ!!」
最後の望みで求めた助けがどこかの誰かに届いたのか、栞の鼓膜を揺らした男性の声音。
未だ殴られていない事に安堵しつつ、彼女は恐る恐る力強く瞑った目を開く。
そして、その霞んだ視界に映った人物を認識した瞬間、今まで耐えていた涙が涙腺のダムを崩して流れ出す。
「み、南君……!」
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