コンビニに行ったクーデレ美女が、どうやら戻ってこないらしい

「二分くらい歩けば一応あるけど……どうかしたの?」

「えっと、あの……今日交通系IC持ってくるの忘れて……基本現金持ち歩いて無いから、お金ろさないと帰れないの忘れてた……」


 恥ずかしさで震える声音を精一杯抑えながら、申し訳程度に言い訳を並べる栞。


「あ、そういう事ね!ていうか、交通費くらいなら全然貸すよ?」

「いやっ!それはほんっと申し訳無いからっ!!コンビニの場所だけ教えてくれたら自分で下ろしに行く!」

「え、あ、そう……?えっと、コンビニはこの道真っ直ぐ行けばあるけど……」

「真っ直ぐね!ありがと!」

「う、うん……迷わないとは思うけど、一応付いて行こうか……?」

「ううん、大丈夫!最悪スマホで調べる!二人は先に帰ってて!送ってくれてありがと!」


 恥ずかしさと焦りから早口でそう言うと、栞は言葉の勢いそのまま小走りでコンビニの方向へと向かって行く。


 そして、そんな彼女の背中を眺める取り残された二人。


 ルリアは、凛音の横顔に視線を向けながら小首を傾げて、


「どうしますか?お姉ちゃんは、先帰ってと仰っていましたが……?」

「もちろん待ってるよ」

「ふふっ、凛音さんならそうすると思いましたっ!」


 返って来た答えに、朗らかな笑顔を浮かべてそう言った彼女。


 凛音としてはコンビニまで引率したい気持ちで山々だが、本人が大丈夫だと言っている手前無理に付いて行くのは余計なお世話が過ぎる。むしろ、気持ち悪いとすら思われるかもしれない。


 だが、この場所でコンビニから戻るのを待つくらいなら、そこまでおかしな話では無いだろう。見送りの延長線であり、それ以上でもそれ以下でも無いからだ。


「……あそこに座って待ってようか」 


 彼が指を差した先にある、恐らくは待ち合わせ用に設置された木製の小さなベンチ。


 こくりと頷いたルリアを連れて、ちょうど二人座れるそれに腰を下ろした。


「ちなみに栞お姉ちゃんは、どうして走り去って行ってしまったのでしょうか……?」

「えっとね、ルリアも前に電車乗ったでしょ?あれを乗る為にもお金が必要なんだよね。それを持って無かったから、銀行に預けてるお金をコンビニへ下ろしに行ったんだよ」

「なるほど……コンビニは確か、わたくしを拾って頂いた全国に無数あるという、あの便利なお店ですよね?そこが銀行の役割も担っているなんて、この世界の文明レベルの高さが伺えます……」


 少しずつ日本に慣れてきた彼女だが、それでも当然未知と遭遇する毎日なのは変わらない。


 今を生きる日本人にとってあまりにも馴染み深いコンビニに対して、本気で感心して心の底からの感嘆を漏らしているルリア。


 凛音は、そんな新鮮過ぎる反応を見せる彼女に、くすっと楽しそうな笑みを零して、


「最近は俺の家に馴染み過ぎて違和感が薄れてたけど、こういうの見るとやっぱりルリアって異世界人なんだなって思い出すね」

「私は、果たして馴染めているのでしょうか……?」

「いやもう、俺の家にいる分には完全に溶け込んでるよ?一条だって、絶対ルリアが異世界人だとは思って無いだろうし」

「でも、普通はメイド服を私服にはしないって、お姉ちゃんに言われました」

「あー……まぁ、それはそうかも。じゃあ何だろ?……局所的異世界人?」 

「…………何か、可愛くないです」


 頬を少しだけぷくっとさせて、拗ねたようにそう言った局所的異世界王女きんぱつきょにゅう


 そんな様子の彼女に、凛音は柔和な笑みを浮かべて、


「ごめんごめん。そうだよね、ルリアは可愛いもんね」

「……むぅ。何だか最近、私の扱いが段々雑になってません?」

「そう?そう感じるならまぁ……転がり込んできた居候と仲良くなってきた証拠かな……?」

「ウッ……それを言われてしまうと、もう返す言葉が無いです……毎日ありがとうございます……」 

「あははっ!冗談だよ冗談。むしろ、教えた家事は欠かさずやってくれてるし、俺の方こそありがとう」

「ふふっ、二人して頭を下げ合うなんて……おかしな光景ですねっ!」

「しかも夜中のこんな所でね?」


 どちらからともなく笑みを零して、それに釣られてもっと笑ってしまう二人。


 周囲にはほとんど人の姿など無いが、もし赤の他人がこの光景を見たらカップル以外の何物にも映らないだろう。もしくは付き合う直前の男女とか。


 その後も少しの間、凛音とルリアは他愛も無い雑談に華を咲かせていた。


 こういう所連れて行きたいこういう所行ってみたい、こういう事したいこういう事してみたいなど──会話の中心は主に未来の事。


 ルリアがいつ元の世界に戻るのか、はたまた戻れるのか全く分からないが、少なくとも口を動かしている二人には、そんな事が脳によぎる瞬間など訪れなかった。何故なら、彼等の頭の中は楽しい未来への展望でいっぱいだったから。


 思いのほか盛り上がった雑談に、危うく時間を忘れて夢中になりそうだった二人。


 元を辿れば、この時間は栞がコンビニから戻って来るのを待っている時間だという事を思い出し、そこでやっとある違和感に気が付く。


 ここから彼女が向かったコンビニは、ゆっくり歩いても往復五分は掛からない。それなのにも関わらず、話し込んでいてかれこれ十五分は経っているだろう。これはあまりにも遅過ぎる。


 もちろん何か買い物をしていて時間が長引いている可能性もあるし、むしろその可能性の方が高い訳だが──


「……凛音さん。何か……嫌な予感がします」

「うん、俺もだよ」


 説明の付かない第六感が、二人の心を騒ぎ立てるのだ。早く栞の元へ駆け付けろと。


 お互いに感じ取った嫌な予感に、すかさず立ち上がった凛音。そして、ルリアもそれに続く。


「何にも無かったらそれが一番良いけど、念の為行ってみよう」

「えぇ、これが杞憂である事を願います」


 示し合わせずともこくりと頷いて、互いの意思の疎通を図った二人。


 そのまま、妙に心拍が早い心臓の鼓動に煽られながら、栞が歩いて行った道をなぞっていった。

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