転生者の記録係だけど変なのしかいない件

第1話:チートが「即死」なのに本人が不死身

「はい、次の転生者入って~。」


そう叫ぶ俺の声に反応して、女神の間の扉が重々しく開く。

今日もまた一人、異世界転生の審査と記録のために、転生者がやってくる。


ちなみに俺は、異世界転生管理局・記録係。名前は伏せる。どうせ誰も覚えてくれないからな。


目の前に現れたのは、全身黒ずくめの男だった。

サングラスにマント、漆黒のローブ。完全に中二病真っ盛りといった出で立ちで、案の定、口を開く前からやばい匂いがする。


「……来たか、我が魂を導く者よ。」


「うん、出落ち感すごいね。自己紹介どうぞ。」


「我が名はクロノ=D=オーバーデス。現世では“終焉の魔王”と恐れられし者――。」


「はい却下。名前長いし設定重い。普通に本名でいいよ。」


「……田中潤一郎です。」


「潤一郎か。じゃあ潤ちゃん、希望のチート能力は?」


「即死魔法です。」


「は?」


「目が合った相手を即死させる魔法です。」


「うん、また女神やらかしたな。どうやって転生先の人間関係築くつもりなの?」


「目を合わせなければいいんです。」


「それ、事故る未来しか見えないんだけど」


とりあえず記録用の書類に「即死魔法」とメモ。


「で、そのチート能力の検証は済んでる?」


「ええ。試しに自分にかけてみました。」


「……自殺願望あるの?」


「違います。ただ、試してみたかったんです。」


「で、結果は?」


「死にませんでした。」


「それってもう“即死魔法”じゃなくて、“即死しない魔法”じゃない?」


「おそらく、即死効果は発動してるんです。でも、自分にだけ効かないみたいで。」


「いや、それ本当に効果出てるの?検証対象他にいた?」


「女神の付き添いの鳥が……。」


「死んだのかよ!?」


記録係として何人もの転生者を見てきたが、これはトップクラスにヤバい。

倫理的にも、物理的にも、転生早々世界を滅ぼす気かこいつ。


「えーっと……一応、異世界での目的は?」


「魔王になります。」


「うん、知ってた。」


「世界を恐怖で統べたいです。」


「じゃあまずはモンスターあたりから練習してね。人間には手を出すなよ?」


「人間が目を合わせてきたらどうします?」


「逃げろ。そして鏡を見て自分が映らないよう祈れ。」


そんなこんなで、今日もまた女神の選球眼がバグっていることを記録した。

転生者コード:JUN-0049

能力:即死魔法(ただし本人は死なない)

性格:やや残念、厨二病気味


あー、胃が痛ぇ……次の地雷系転生者、カモン。

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