第5話 私の『好き』
ぐるぐると高倉くんとのエピソードを思い出す。お姉さんに今まで高倉くんとの思い出を話した。
転校してすぐとなりの席になったこと。
バニーホップの話題ですぐ意気投合したこと。
サッカー部に入ったけど、和田くんっていう子とうまくいかなくて、すぐやめちゃったこと。
そして、私と一緒の写真部に入ったこと。
池袋で高倉くんが女の子の格好していることに気づいたこと。
それでSNSのアカウントを教えてもらったこと。
原宿に一緒に遊びに行ったこと。
メイクを教えてもらったこと。
お姉さんは、うんうんと興味津々といった様子で聞いていた。そういえば、最近喧嘩したわけじゃないけど、少し気まずいんだ。その話もしなくちゃ。
「実は私ママに、せっかく高倉くんと仲良くしているんだったら、LGBTQ+について勉強してみたらって言われたんです。」
「LGBTQ+?」
「それで自分でいろいろ調べてみて、高倉くんってもしかしてトランスジェンダーなんじゃないかなって思って『男の子が好きだったりするの?』って聞いちゃったんです。」
お姉さんが目を丸くした。
「そしたら、『俺は心は男やし』って怒らせてしまって、私も決めつけちゃったのよくないなって思って謝ったんですけど、その後様子が少しおかしくて。」
「様子がおかしい?」
「そうなんです!親友って言っても悲しそうな顔するし、SNSやめるっていうし、数学の問題教えてもらってすごいって褒めたら、かっこいいって言ってもらいたかったって言うし。」
そこまで聞くと、お姉さんは笑い始めた。
「なんや、そないなことやったんか。理由わかってよかったわ。あかねちゃん、よう話してくれたなあ。」
「え?今の話で理由が分かったんですか?」
「せやせや、心配して損したわ。ほな、あかねちゃんはどんな子が好きなん?お姉さんと恋バナしよや~。」
こ、恋バナ!?いきなりお姉さんにテンション高めに言われてびっくりした。
「うちはな、身長高くてな、シュッとした男の人が好きやねん。」
シュッってなんだろう?かっこいいということかな?
「自分も昔は周りの女の子と一緒で、かっこいい男の子が好きなのかなって思っていたんです。でもクラスの友達が騒ぐ、イケメンとかかっこいい人が、自分にはいまいちピンとこなくて。この前、LGBTQ+の記事を読んで、そういえば自分、恋愛的な意味の『好き』がよく分からないなって思って。」
「ふ~ん」
「もしかして、まだ自分の性や自分の好きの気持ちが分からない人――もしかしてクエスチョニングなのかな!?かとも思ったんですけど、まだ中学2年生ですし、これからですかね?でも、将来誰かとパートナーになるなら、お互いの『好き』を共有、共感できる人がいいなと思ってます。」
「うんうん、うちもそう思うで。あかねちゃん、よう考えてるわ~。せやけどな、今の話聞いてたら、ちゃんと話も聞かんと決めつけてんのは、律の方やんか。うちからも、ちゃんと言うといたるわ。」
お姉さんが最後に言った『決めつけているんは律の方』の意味はよく分からなかったけど、――ほんの少しだけ、胸が軽くなった気がした。ファミレス代はお姉さんが全部奢ってくれたし、とても満足そうに帰っていった。高倉くんも元気になるといいな。
その日の夕食は、肉野菜炒めだった。肉の旨味がしみたキャベツとにらがおいしい。食卓で、ママにLGBTQ+について調べたことと、今日高倉くんのお姉さんに会ったことを報告した。
「あかね、SNSで知り合った人は、必ずしもいい人とは限らないから、今度誰かに会おうと言われたら、まずママに相談してちょうだいね。今回は本当に高倉くんのお姉さんだったからよかったけど。」
「うん。分かった。高倉くんのお姉さんは、とってもいい人だったよ。でも高倉くんが小学校の時の不登校だった話を聞いた時は、ちょっとびっくりしちゃった。今も元気ないってお姉さん言ってたし、大丈夫かな?」
「そうね……心配ね。」
「カワイイものが好きな男の子って、すごく素敵なのに――今の社会だと少し生きにくいのかもね。」
「性も個性の一つなのにね。みんな自分らしく生きれる社会になるといいわね。」
「うん」
ママはこちらを見つめ、優しく目を細めた。私が私らしく。高倉くんが高倉くんらしく。みんなが自分の『好き』を認めあえる世界に、いつかなるといいな。――でも、そう願うだけじゃなくて、いま私が高倉くんにできることって何かあるかな?
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