高倉くんのカワイイを応援したい!

志熊みゅう

第一章 転校生の秘密

第1話 大阪からの転校生

 ――きんこんかんこーん♪


 チャイムの音とともに新しい学年が始まる。私は染谷そめやあかね。今日から中学二年生だ。クラス替えがあって、新しい友達に囲まれて、少しソワソワする。ちゃんと仲良くできるかな、クラスになじめるかな。不安で胸がきゅっとなる。


 顔をあげると学年でもかわいいと評判の早乙女さおとめさんの周りに人だかりができていた。女の子も男の子も彼女の周りで楽しそうに声をあげて笑っている。かわいい子って得だな。自分から動かなくても、周りが勝手に集まってくるんだもの。


 白衣をひるがえして、新しい担任の先生が入ってきた。化学の町田まちだ先生だ。授業は分かりやすくておもしろいらしいけど、理系らしく少し気難しいタイプと聞いている。白衣の裾を整えながら、神経質そうに眉間にしわを寄せた。


「……君たち、動物園じゃないんだから。チャイム、聞こえなかったか?」


 教室が一気に凍りついた。声を荒げたわけではないけど、その言葉の選びから、早速彼を怒らせたことが分かった。みんなあわてて、自分の席に戻っていく。


「2年B組の担任になった町田優作ゆうさくです。教科は化学を担当している。ホームルームを始める前に、まず君たちに転校生を紹介する。入りなさい。」


 あ、私のとなりの席が空いている!転校生、絶対私のとなりの席じゃん。どんな子かな?仲良くなれるかな?


 ――ガラガラ


 教室の引き戸が開いて、ひょろっとした黒縁めがね少年が部屋に入ってきた。先生が黒板に彼の名前を書く。


「大阪から転校してきた高倉律たかくらりつさんだ。みんな仲良くするように。高倉さんからもクラスのみんなに挨拶を。」


「はじめまして。高倉律って言います。大阪の吹田っちゅうとこから引っ越してきました。これから、よろしゅうお願いします!」


 お、関西弁だ。関西の人って、やっぱりお笑いにうるさいのかな?お好み焼きでご飯食べるってほんとかな?そんなことを考えていると、彼が私のとなりの席についた。


「さっきみんなの前で自己紹介したけど、高倉律や。そっちは?」


「染谷あかねです。よろしく!」


「染谷さんか。じゃあ『そめやん』な。ほな、よろしゅう。」


 ええっ!そめやんって何!そんなあだ名でよばれたことない。完全なる不意打ち!


 ふと高倉くんの真新しい鞄についた、まっしろでモコモコのマスコットに目が留まった。


「それ!バニーホップのマシューだ。」


「そめやんも知っとるんや。うれしいわー。」


 バニーホップは、ネットでじわじわ人気のゆるキャラ漫画。3匹のうさぎが織りなすちょっとシュールで不可思議な日常がツボる。おっちょこちょいでまっしろなうさぎのマシューは、サブキャラだけど、いつも一生懸命なところが私も大好き。最近、バニーホップ関連グッズが出始めたけど、中学生で知ってる人はまだ少ないと思う。まさか学校でバニーホップのことを知っている人に出会えるとは。早速となりの席の転校生と共通の話題をみつけて、少し緊張がほどけた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る