第28話 鏡
「となればその鬼はたんまりと人を食っているのだろうな?」
「それはもう。近隣の村では飽き足らず遠出で人をさらってきております」
「美味。その神の血肉はどうだ?」
「だいぶ傷んでいるけど食べられるよ。大餓。乗り気なの?」
「ああ。もう読めたぞ。この妖怪と交渉している時点で遅いのだろうな。この選択に関わらず、また百鬼夜行が始まるという訳だ」
「この剥げ爺に騙されたという事ですか!?」
「これは心外な! 我らがここまで心血を注いで儀に訴えてるというのにそれを疑うとは!」
「そいつは踊らされているだけだ。これが腹芸なら大したものだな」
「なんと。我らが踊らされているなどと、いやはや嘗められたものですな」
こいつは本当に腹芸が出来ないな。妖怪ではないのか?
それとも見た目に反して年は取っていないのか。
「鬼を相手に万全か。後ろを見てみろ」
「なんと!? いや、何もないで、・・・何処に行かれた?」
「後ろであろうよ。我らの目は節穴でござろう」
「これは面妖な。鏡を見ているようですが、鬼の妖術でありましょうか」
俺は空間に浮かせた鏡を割る。
これは自身の見せたいものを見せる異能だ。
見るものによって見えるものを変えられる。
いわば姿を変えずに変装が出来るようなものだ。
「これではな。お前は本当に妖怪か? あまりにも日が浅い。この程度で驚いていては妖怪とさえ会っているか怪しいぞ」
「面目ない。人の世に慣れ過ぎた、いえ、人であることを求めすぎた世生でしょう。なればこそ鬼討ちなどと妖怪らしからぬ所作が生まれる。申し遅れましたが私の事は衾とお呼びください」
「人と関わり過ぎたな。俺達は目についた人間は全て食うぞ。それをお前は座視できるのか」
「・・・かの鬼を討てるのならばやむをえますまい。我らの悲願ならばその者達も納得しましょう」
「お前が納得できるのか。人が全滅した里に一人で帰れるのか」
「・・・」
「目についた人間は全て食らう。算段は付けておけ。お前の話を受けよう」
「ありがとうございます。その言葉しかと聞きました。報酬は今ここで?」
「大いなる餓と書いて大餓だ。妖怪を名乗る衾よ。前金として酒をもらおう。今はそれだけでいい」
「わかり申した。大餓殿。何卒宜しくお願い致します」
「大餓サマ。この話に乗るのですか?」
「ああ。それについて喚き、お前に頼みがある。先の鏡の術。お前に使ってもらいたい」
「あれ私にも使えるのですか!?」
「素養はある。お土産も用意しよう」
▽
Tips
世生(せしょう)
造語。意味は世の生き方。言葉の響きが気に入ったので採用。
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