第19話 三人でファッション・フィールドへ

 ゲーセンを出ようと、次の場所へと向かおうとした時、2人はふと立ち止まった。


「……ちょっと、私、お花摘みに行ってくる」

「わたしも行ってきます」

『ちょっと待ったー!!』


 インカムから、マリ先生の甲高い声が響いた。


『誠司君を! 一人に! しないでぇぇぇ!』

「えっ」


 両サイドでぴたっと止まる二人。


「……一人にしたら、何か起こるんですか?」

「えっ、ていうか、何か俺、ターゲットにされてる……?」

『当然でしょ。ここ、ゲーセンだよ? 男子にとっては“無法地帯”なの!』

「無法地帯って……そんな大袈裟な……俺、LPS勲章もちゃんと着けてるし」

『甘い! 甘すぎる! その勲章は護符じゃない!』


 インカム越しに、研究室の地獄の声が炸裂した。


『LPS男子だろうが、ナンパはあるし、最悪、触られて帰ってきてトラウマでLPS辞退した男子もいるのよ!?』

「ええぇっ!?」

「……そんな、戦場だったんですね」

「たしかに、さっきから……視線、感じてたような……」


 二人が周囲に目を配る。そこには普通に見える女子たちが、なんとなく、こっちをチラチラ見ていた。

 

 とくに俺の腕に付けた“LPS男子証”に。


「……こっち見て笑ってる人いる……」

「手を振って来てる人もいますね」

『誠司君、目を合わせないで! 目を合わせたら、相手の土俵に立ったことになる!』

「え、ええ……そんなサファリパークみたいな理論で……」

「いい? 絶対交代で行くの! 二人が絶対に同時にいなくなる状況はNG! それ、鉄則!!』

「えーっと、じゃあ……俺、トイレは大丈夫なんで……」

「じゃあ、瑞希さん、先行って」

「了解しました。では、すぐに戻ります」


 瑞希が小走りでトイレへ向かい、由依が俺の横に立ったまま、くるりとスカートを軽くなびかせた。


「……ほんとに、危ないんだね」

「……いや、俺も思ってる。なんで俺、ゲーセンで身の危険感じなきゃいけないの?」

「でも、私が守るよ。瑞希さんが戻るまで、ちゃんと横にいるから」


 そう言って、由依さんはちょっとだけ照れくさそうに笑った。

 

 けど、その指先は、俺のシャツの袖をそっと摘んでいて……たぶん、本当に守るつもりなんだと思う。


 ……俺って、そんなに危なっかしいのか?


『誠司君、安心して。監視カメラで全員見守ってるからね!』

「それはそれで怖い!」











 その後ゲーセンを出た俺達は商業施設へと向かう。商業施設の入口をくぐった瞬間、無数の視線が俺達に降り注ぐ。


 ……というか、正確には、俺の両隣にいる由依さんと瑞希さんに、だ。けれど、その視線の矢の飛び先が、確実に俺にも突き刺さってるのを感じる。


「……すっごい見られてる気がするんだけど、気のせいかな?」

「一ノ瀬さん、気のせいじゃありません。見られてます。あからさまに」

「み、みんな見すぎです……恥ずかしいです」


 注目されることに慣れている2人でも、余程恥ずかしいのか視線をそらして歩こうとしてる。


 にしても、皆俺達の事、すごくガン見してんな。まぁ男1人、女2人で歩いているのがよっぽど珍しいのだろう。だって普通はWデートなんてしないしな。


「大丈夫、気にしないで。今日は訓練だし」


 俺は軽く笑顔を返すことで、無言のプレッシャーをやわらげようとする。


「そうですね」


 そんな俺たちが向かったのは、アパレルショップ。以前由依と来たときと同じ、女子向けのアパレルショップだ。


「ここ……あのときに、誠司くんと来たお店だよ。この服も誠司君に選んでもらったんだ―」


 そう言ってくるりと、瑞希さんに見せつけると、瑞希は少しムスっとした顔をしていた。

 

「ふうん。思い出の場所なんですね。……ちょっと、ずるいです」

「ず、ずるい……?」

「私も、選んでほしいです。誠司さんに、似合う服を」


 瑞希が少し頬を染めながら、きっぱりと言い切る。その目は本気だ。


「ま、任せて。俺、服選ぶのは素人だけど……瑞希さんに似合いそうなの、探してみるよ」


 冷静沈着な瑞希さんに似合うのは、やっぱりモノトーン系か? それとも意外性を狙ってフリル系?それとも……


「こんにちはー! 今日はどんなのをお探しですか?」


 急に店員さんが笑顔で突撃してきた。……いや、突撃というか、ダイレクトアタックだこれは。


「あ、えっと、俺は……その……っ」


 しどろもどろになっていると、隣にいた由依さんがすっと前に出た。


「すみません、夏ものの服を探してるんですけど……、おすすめとかありますか?」

「えっ……あ、はいっ、夏物の服ですね! こちらにございます!」


 そう言うと、店員さんはすごい勢いで下がっていった。


「由依さん……ナイスすぎる」

「えへへ。こういうのも訓練の一環、だよね?」


 その瞬間、インカムの中からマリ先生の声が聞こえてきた。


『ナイス対応、由依ちゃん! あれは高得点よ~、実地判断◎!』

『フフ……誠司くんも混乱せず冷静だったら+10点だったわねぇ』


 なんか実況されてるんだが!? まぁ、いまさらだけど。


「じゃ、改めて。瑞希さんに似合いそうな服を……っと」


 俺はラックを眺め、慎重に選び始めた。やっぱり黒系のタイトなニット……いや、白シャツ系も清楚でいいか? でも瑞希さんは、意外とスカート派じゃないかもしれないし……。


 そうして悩むこと数分。


「……これとか、どうかな」


 俺が差し出したのは、シンプルな白シャツに、ネイビーのプリーツスカート。それにワンポイントの金ボタンがアクセントになってて、瑞希の整った顔立ちに合うと確信していた。


「……これは、いいですね。試着、してきます」


 そう言って、瑞希さんはその服を抱えて、すたすたと試着室へ向かった。


 ……さて、瑞希さんはどう着こなしてくるかな?そう思いながら待つこと数分。


 瑞希がカーテンを開けて、ゆっくりと試着室から出てきた。


「どうでしょうか? 似合ってますか?」

「すごく、似合ってるよ」


 言葉に迷いはなかった。瑞希さんの凛とした雰囲気に、シンプルな白シャツに、ネイビーのプリーツスカートが瑞希さんのクールな雰囲気とマッチしている。


 普段の制服姿とも違う、大人っぽさすら感じる。


「……そうですか? ふふっ、それは嬉しいですね。誠司さんが選んでくださった甲斐がありました」


 いつもの無表情にほんのり色が差してて、それがまた……いい。


 そんな瑞希を眺めていると……。


「じゃーん、私もお待たせっ」


 由依さんが登場。明るめのカーディガンに、パステルカラーのスカート。柔らかな雰囲気が、由依の性格にピッタリだった。


「うわ……かわいい。由依さん、似合ってるよ」

「ほんと? ありがとう瑞希さんもすっごく似合ってるよ、めちゃくちゃ綺麗!」

「そ、そうでしょうか……? あなたも本当に、かわいらしいです」


 ふたりは見つめ合って、ちょっとだけ照れ笑い。あれ、これ完全に女子会空間じゃん……いや、悪くない。


「由依さんもよく似合ってるよ。色のチョイス、ばっちり」

「えへへ、ありがと。誠司くんにそう言われると、なんか嬉しいなぁ……、これ買っちゃおうか瑞希さん」

「そうですね。私も買います」


 喜んでもらえてよかった。2人は笑顔でレジへと向かって行った。


 と、そのとき。


『誠司君、体調は大丈夫かしら?』


 インカムからマリ先生の声が聞こえてきた。うわ、絶妙なタイミング。


「はい、大丈夫です。今のところ、何ともないです」

『ならいいけど……そろそろ休憩入れて。無理は禁物よ?』

「わかりました。ありがとうございます」

「おまたせー。会計済ませてきたよー」


 俺はインカムのマイクを切ってから、レジから戻って来た2人に提案をする。


「えーと、そろそろ休憩しようか。先生からも、無理しないようにって言われたし」

「うん、それじゃあお昼にしようか!」

「異議なしです。甘味より先に栄養補給が必要ですね」

「……甘味、狙ってたのか」

「ふふっ、バレました?」


 まったく、今日は表情豊かだな、瑞希。こっちがうっかりニヤけそうになる。


「じゃあ、近くのファミレスでも行こうか。席も広いし、ゆっくりできると思うよ」

「賛成~。私、グラタン食べたい気分!」

「それなら私は、無難にオムライスを選びます」


 なんか、二人ともすでにメニュー決まってるっぽい。じゃあ俺は……ナポリタンとかかな?


 こうして俺たちは、次なる訓練……もとい、デートの舞台、ファミレスへと歩を進めたのだった。

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