第2話
「表向きには、太陽神の力を失ってしまった妹の代わりに、姉が妹の跡を継いだと美談にされているが……実は姉の力を奪っていた妹の悪事が暴かれ、姉は力を奪還することに成功。姉含め他の神々により粛清された妹は消滅したんだと。どうだ! すごいだろう!?」
「へぇ、すごいですね。貴方は物知りなようで」
「そうだろう、そうだろう! 他にもいろいろ知って——」
「おーい! 酒を頼みたい。こっちにきてくれ!」
「あ、はーい! 今すぐ!」
悪いな嬢ちゃん。と、断りを入れてから店員が仕事に戻っていく。またこちらに戻って話を聞く羽目にならないようにと、さっさと店を出た。
美味しい食事も急いで食べては味すら分からない。
店から出て少し歩くと辺りを確認して路地へと入った。
高い位置で髪を一つにまとめ上げていた赤い組紐を解くと、長い髪の毛がパサリと軽い音を立てて腰へと落ちていく。
続けて蝶々結びしている前帯を解いて薄紅色の着物の袖を外しそれを肩に羽織る。中に着ていた桜鼠色の着物の前を整えながら、外した帯で手早く前帯を結んだ。
仕上げに伸びっぱなしの前髪で視界を悪くすると、ふぅ〜っと気の抜けた声が口からこぼれ落ちた。
「こっちの方が落ち着く」
肩に羽織っている桜文が入った薄紅色の美しい着物よりも、所々破れ穴が空いている桜鼠色の無地の着物の方が私に似合う。
町で食事をするためにいちいち小綺麗にしなければならないのは面倒。でも、そのまま店に入れば追い出されてしまう。必ずではないけれど、たまにある。
普段は山で生活しているからこそ、下りたときぐらいは店で美味しいご飯を食べたい。そのためには少しの面倒は仕方のないことだ。
「……にしても、あの話はすごかった」
太陽神の姉妹の話はよく知っている。町に出れば誰かしらがその話を口にしているし嫌でも耳に入った。
まさかあんな裏話があるとは知らなかったけど。
妹は姉の力を奪っていたが、姉は力を奪還することができ、神々の粛清を受け妹は消滅した——だったか?
どれも見事な虚偽。どうせどこかの噂好きな神が話に色をつけて語ったのだろう。
いや、もしかしたらその神は真実を語っていると思っているのかもしれないけれど。
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