土用の丑はまだだけど

茶村 鈴香

土用の丑はまだだけど

ある種の都市伝説によると

あと4時間で世界が終わるって

何がどうなって終わるのかは

知らないけど


冷蔵庫のさくらんぼをみんな

食べておけばよかった

一度行こうねって言ってた

鰻屋さんに行っておくべきだった


大好きな叔母と

もう一度生ビール飲みたかった

毎日リモートワークのあなたと

もう一度山道をドライブしたかった


あなたはいま外国に出張

この都市が終わるのか

この国が終わるのか

この世界全てが終わるのか


できれば窓ぎわで外を見てる

猫たちがそばに来てくれるといい

何がどうなって終わるのか

ふわふわの猫の毛に埋まりたい


最後の瞬間

私はあなたを想うかな

遠い国で

あなたは私を想うかな


いつの間にか眠ってて白い朝

世界は終わらなかったようだ

猫たちと朝ごはん食べながら

時差も考えず電話してみる


「おはよう、生きてる?

帰ってきたらドライブ行こうね

帰ってきたら鰻も食べに行こうね」


「今寝るとこだよ、何があったの?」

「世界が終わらなかったよ」

「それはよかった」


いつか世界が終わる前に

私が終わるのだろうから


いつかねって思ってたお楽しみの箱を

そろそろ開ける歳なのかもしれない


いつかねって思ってたやらなきゃの箱も

だましだまし開ける歳なのかもしれない


ずっとエアコンつけてた部屋の窓

空気入れ替えたら

吊るしたままの風鈴が鳴った



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