魔物襲撃!? ピンチからのご飯にしようか! 食育勇者の三姉妹!

夜野 舞斗

第一章 君との出逢いをいただきます!

第一節 勝利の味にごちそうさまです!

1.女剣士とコンビニ海鮮丼(1) この出逢いが奇跡を起こす!?

 樹々埋めく深そうな森の中、ジャージ姿で立ち尽くす。片手のコンビニ袋には地図もコンパスも入っておらず、ただただ新鮮な海鮮丼が入っているだけ。

 目を閉じても、さっきまでいたコンビニには戻ってくれない。

 感じる空気の冷たさから、夢の可能性もすぐさま否定された。

 あり得ない。

 知らない場所への瞬間移動など実際に起きるはずがないと自分に言い聞かせている最中。翼の生えた狸のような存在が右から左へ飛んでいく。


「嘘だ……」


 空想上の生き物が現れるだなんて、まるで異世界転移したかのよう。

 異世界転移なんてゲームやラノベの中の存在ではないだろうか。

 何も受け入れられず、目をぱちくりさせることしかできない。その状態で後ろからガサッと何かが飛び出した音がする。

 感じたことのない危機感、そんな嫌な予感がして後ろを確かめた瞬間、心臓が止まり掛けた。


「ぐぐぐぐ……ぐるぅううううう……ぐるぅん?」


 ウサギの頭をしてはいるものの、その首には人間の頭位はある花弁が付いている。茶色い花弁は図鑑で見たことがある。ラフレシアだ。

 そのラフレシアをまとったウサギの口。

 純白でそれはもう尖った牙が見えた。あれに噛まれたら、破傷風か。と考えて、首を横に振る。感染症どころの話ではない。一発で体に穴が開く。

 ウサギの牙は唸り声と共にガチガチ音を鳴らし、ラフレシアは異常な速さで回転している。

 わーい、遊園地のアトラクションだ。なんて愉快になっている場合ではない。


「ちょっ、俺、美味しくねぇんだわ! ほら、そっちにもっと美味しそうなニンジンがとことこ歩いてるぞ!」


 その言葉でぷいっと反対側を向くウサギ。騙されてくれるものか。


「おっ……?」


 と思ったがすぐ前を向く。そして俺に対して、「うがぁ!」と喚いてきた。んなものは、ないじゃないか、と。更に怒らせてしまったようで。

 俺は一目散に駆け出した。当然奴は四本脚を駆使して、全速力で追い掛けてくる。

 化け物に追われる夢なら何度も見るのだが。本当に命懸けとなるのは、今回が初めてだ。どうにかこうにか逃げられないかと頭を回転させていく。

 ラノベだと特殊能力が俺についているはず。

 ならば、俺も魔法が使えるのではないだろうか。

 一旦立ち止まり、大声で叫んでみる。


「ファイアー! アイス! サンダー! ええと、地震、雷、火事、親父!」


 しかし、何も起こらなかった。誰もいないが、言ってて恥ずかしくなってきた。

 攻撃しようと立ち止まったことが仇となり、奴に急接近されてしまった。

 つまるところ、俺の場合は何も特殊能力がないようで。ただただ普通の人間として、異世界に飛ばされたよう。

 ウサギは近づいてくると、手を前に出す。ちょこんとした前足かと思えば、変形して銃口のように穴が開く。


「ま、まさか……」


 一発。

 運よく俺は回避できたのだが。後ろの樹に穴が開いた。心の中にいる恐怖が増強され、汗が大量に流れ落ちていく。


「ひぃ……! や、やめてくれぇええええええ!」


 ガチガチになってもう動けない足。もう一発奴から銃撃を喰らったら、お終いだ。

 ダメだ。殺される。


「だれか……たすけて」


 その時、だ。


「その子を離して! 弱い者いじめをするなら、成敗するよ! 『そよ風斬り』!」


 ウサギの後ろから何者かが、何かを振り下ろした。辺りの空気が涼しく感じられる程、シャキンッと聞き心地の良い音がする。刹那、大きな花弁が二、三枚、舞い落ちていった。

 剣を振った人物は俺の前に立つ。

 水色のワンピースを着た少女に風が吹く。桜色の長髪がなびくと共に少女は白金に輝く剣を両手に持って前に突き出していた。

 続けて、奴に向かって剣を振るう様子は髪が風に流される様と同じだった。剣と彼女自身がシンクロしている。

 見事な剣裁き。

 しかし、奴にはあまり効いていない。前足をまた銃口に変化させる。

 次の行動は手に取るように分かった。だから急いで彼女に伝えていく。


「銃撃が来る! 気を付けて!」

「大丈夫! 種の銃弾なら一発でぶった切る!」


 一閃。

 確かに相手の攻撃に彼女は刃を当てた。しかし、思っていたのと全然違う。弾丸が来たのではなく、花粉みたいなものがパラパラとばらまかれていた。切り裂いても切り裂いても、粉の攻撃は防げない。

 その粉がほんの少し鼻で吸ってしまうことで気付いてしまった。

 毒だ。

 鼻の中がピリピリして、手足が震えてくる。

 そして目の前の少女は間違いなく、その花粉をまんべんなく浴び、体の穴という穴に入れてしまっている。

 つまり、彼女は動けなくなってしまう。


「ああ……やばっ」


 明らかに苦しそうな顔をしているのを横から確認できた。ただ、俺よりは耐性があるのか、「くしゅん」とくしゃみをしてから、深呼吸をする。

 再度彼女は剣を投げた。


「風の力で吹っ飛ばすっ! 『かざぐる魔』!」


 敵ではなく、俺達の周りを瞬時に回っていく剣。

 彼女の剣から異様な風が発生したかと思えば、緑色のオーラが花粉を俺達の周りから跳ね飛ばしていく。

 そしてブーメランのように戻ってきた剣の柄が彼女の手中に収まっていた。


「かっこういい……けど……」


 彼女の技は一つ一つに磨きが掛かっていて、恐ろしく強い。だけれども。

 明らかに彼女は苦しんでいる。息も荒くなっていて、明らかに千鳥足になっている。だから、つい俺が余計にも叫んでいた。


「剣を仕舞って!」

「えっ……!?」

「いいから!」


 この時の俺はたぶんどうかしていた。彼女が慌てて剣を仕舞うのを確認した後、魔物の前に飛び出して少女を抱え上げようとした。

 幸い彼女は軽い。

 なら逃げられる。相手が攻撃をした直後は隙ができるようで。


「えっ、何々!? 何で何で!?」

「今の状況じゃあ、どう見ても危ないでしょ! あのまま戦ってたら、君は間違いなく……!」

「そっか! やられるところだったんだね!」

「何で戦ってる本人が他人事なんだ……!」


 こちらは心臓が飛び出る位に焦っていると言うのに。

 ただ何故か、そんな少女が近くにいてくれる安心感もあった。彼女のしなやかな肌から感じてくる、特有の香りは何なのだろう。桃のような甘さ、それでいて温かみのあるもの。彼女の長く、しなやかな髪に使われているシャンプーの匂いだろうか。

 心が落ち着くというか、リフレッシュするというか。

 気付けば、森の拓けた場所に出てきていた。後ろは何も追っ掛けてくる様子はない。体が不安定であろう少女をすぐさま切り株に座らせた。

 俺も切り株に座って一息ついていく。

 このままどうなるのか。あの魔物に見つかるのではないかとヒヤヒヤしているところに少女から声が掛かった。それもふわふわの笑顔で。


「さっきはありがとう。私一人の判断だったら逃げ遅れてたよ……こんな私を助けてくれて、ありがとうね……! 自己紹介が遅れちゃったね。私はレディア。剣士の目玉焼きなんだ!」

「それを言うなら、剣士の卵じゃ……!? こんがり焼いちゃってるよ!?」

「あはは! ついうっかり! ちなみに私はソース派だよ! そうそう! 君のことはなんて呼べばいいの?」

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