続 羅生門

@POTATOO

第1話

下人は走っていた。どこまでも暗い夜に檜皮色の着物がちらりと覗いていた。その衣を握るその手が次第にずっしりと重く感じられた。下人は、不意に立ち止まった。「おれは何をした…?」自分の罪を再度確認するかのように分かりきったことを下人は口にした。

下人は生きるために仕方のないことだ。老婆は悪人なのだーーそう言い聞かせても老婆の震えた鴉の鳴くような声、簡単に蹴倒せた痩せ細った体が脳裏から離れない。勇気が生まれてきたはずなのにあの時老婆へ向けた嫌悪と今自分に向けている感情は重なっていた。

その中に哀れみ..とは違う謝罪とも懺悔ともつかない思いが心に重くのしかかっていた。

(老婆に謝らなければ..このままのうのうと生きられまい)

下人は走り出した。いまの今まで黒洞洞としていた朱雀大路は下人には心地よい夜の風さえも感じられた。暗闇の中に浮かび上がる門の影を目指して。

下人が門にたどり着いた時。

そこに老婆の姿はなかった。あの時の火の明かりも消え残された数々の死体はただ沈黙するばかりだった。下人は衣を握っていた手を緩め空を見つめた。

「遅かったのか。間に合わなかったのか。」誰に向けられたわけでもないその言葉はーーよりいっそう深みをました夜に溶けていった。

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