第34話 もう誰にも、本気でいかない
「好きって思われる側に立とう。捨てられるのは、もう嫌だ」
以来、彼は誰にでも優しくした。
勘違いさせて、好かれて、軽く流す。
それでも、唯一どうしても忘れられなかったのが――音無妃芽だった。
妃芽には「自分が惚れる可能性」を感じた。
そして実際に惚れた。
けど、彼女は真悠といる時の方が自然だった。
それが許せなかった。
だから、真悠に優しく近づいて、そして――
裏切った。
傷つけた。
それでも、妃芽にも真悠にも、どこかで自分を「許してほしい」と思っていた。
彼の優しさは、
本当は「自分を守るための偽り」だった。
中学2年の夏。
光助と愁は、毎日のように一緒にいた。
クラスでは“仲良し二人組”として知られ、何をするにもセット。
愁は物静かで落ち着いていたけれど、言葉に芯があって、
光助にとっては「自分の足りないもの」を補ってくれる存在だった。
そんな愁が、ある日、ぽつりと呟いた。
「なあ、吉見。…髙松、美久のこと、好きなんだろ?」
光助はドキッとしたが、冗談めかして答えた。
「え?バレてんの?まあ…ちょっとね」
すると、愁は笑ってこう言った。
「だよな。…俺、もうキスした」
その瞬間、光助の中で“何か”が壊れた。
それからの光助は、愁と距離を置いた。
でも、直接責めることはなかった。
責めたら、自分がもっと惨めになる気がしたから。
「奪われたわけじゃない。俺が勝手に期待してただけだ」
「だったら、誰にも期待しなければいい」
そうして、彼は「誰にでも優しく、誰にも本気にならない」光助になっていった。
それでも、妃芽にだけは――
ほんの少しだけ、昔の自分を信じたくなってしまった。
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