第57話  決着

白い光を纏ったシェインはただ何をする事もなくラミュアを見る、ただ見るだけ。

それだけでラミュアに恐怖の感情を植え付けるには十分だった。


「はっ!はっ!はっ!はっ、ふぅ、ふぅっ!」


息も満足に出来ない、過呼吸に似た症状に陥る。

足が、腕が震える、ガチガチと歯がなる。



「怖がってる?この僕が?あんな、あんなたかだか10何年しか生きてない赤子のような存在に?」


屈辱的だった。

彼女が放った先程の魔法は彼女自身がある目的を叶えるために50年間研鑽を詰んでいたった境地だ。

それをあんなわけもわからない力で無力化されたのは彼女にとってただただ屈辱的だった。


「ふざけるな……ふざけるなぁ!!業火よ轟音となりて我が敵を燃やし尽くせ!フレアボム!!!」



灼熱の火球が轟音を纏ってシェインへと飛来する、

しかしシェインは何の動作も取らずそれを掻き消す。


いや、消滅させる。


そもそもにおいて、彼女が長年かけて編み出した最高傑作を打ち消した相手に高位呪文程度が効力を発揮するわけがなかった。



シェインはラミュアへと歩みよっていく。


瞳は虚ろ、そこには本来の彼が持つ無邪気さや猛々しさ…そして妙に達観した意志はない、無だった。


ラミュアは既に戦意を喪失していた。

50年の年月をかけた最高傑作を無力化されたのは確かに大きい、しかし戦意喪失の最たる理由はトラウマ。


50年前、彼女が取り憑かれたように魔法研究に没頭するきっかけとなった出来事。


白光の巫女


シェインの姿はそれを想起させた。



「嫌だ嫌だ、来るなくるなぁ〜〜、うわぁああぁぁ」


普段の彼女からは想像も出来ない姿にレイラとガノッサも呆気にとられたりはしない。

二人共シェインの変化に意識が取られそれどころではなかった。



「あれは……、シェインなのか?」


「どうしたと言うのだ、シェイン…。」



1歩、2歩と距離を詰め確実にシェインとラミュアの距離は縮まっていく。


そしてとうとうシェインはラミュアの目の前に立った


「殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで」


悲願するラミュアに対して今のシェインはなんの躊躇もなく剣を頭上高く振り上げそれをいっきに振り下ろすのだろう。

その姿は奇しくもシェインがラミュアに死にたくないと懇願していた状況と酷似していた。

しかしその瞬間シェインの手首に何かが巻き付き剣を振り下ろすのを阻害される。



「こっちだ!小僧ぉ!!」


「レニ?どうして!?」


「何ボサッとしてんです!早く逃げて!!」


「あぁぁ、腰が、」


「おばぁちゃんかよ!」


「わぁっ、私はおばあぁちゃんじゃなぁい!!」


「あぁもう!重力領域グラビティフォール!!」



レンの呪文によりシェインの周囲一体に重力が発生、しかし高重力の中であるはずのシェインにはまったくその影響がないのか表情は変わらない。



「化け物がよ!!」



シェインは自分の腕に絡まったレンの鞭を引っ張りレンにターゲットを変更する。



「そうだ俺を狙ってこい!お前の相手は俺だ!」



鞭を捨て、右手の鉤爪でシェインに斬りかかるも白い光に触れただけで鉤爪は消滅する。

遠距離戦、近距離戦、

全てにおいて攻撃が通じない。



「ヤバいな、何なんだコイツ!」



このままでは最悪殺される、そう考えたレンはラミュアだけでも逃がすための作戦を頭の中で模索し始める。

しかしシェインの体を包む淡く白い輝きは除々に失われ元のシェインに戻っていく。

そのままシェインは倒れてしまった。


すぅすぅと寝息が聞こえることから死んでいるわけではない、気絶しているようだ。



「助かったの……か?」



レンは恐る恐るシェインの様子を確認し、彼が先程の異常な状態でないことに確信を得ると腰に下げていたナイフを抜き放ちそれを一気に振り下ろした。


ガキン!


と鉄と鉄がぶつかり合う音が反響。

レンのナイフはレイラの槍にてシェインを刺し殺す事を防いでいた。



「なんのつもりだ?女」


「なんのつもりはこちらのセリフだ、ダークエルフ」


「お前、自分が何を守ろうとしてるかわかってるのか?」


「仲間を守る、当然の行動だ!」


「理解に苦しむな、お前も見ていただろう?コレは人の枠から逸脱した何かだ、生かしておく理由がない、」


「その前にコイツは私達の仲間だ、私にとってそれ以上でもそれ以下でもない」


「話にならん、邪魔するならお前も…」


「まて、レニ……」


「ラミュア様?」


「彼を殺すのは辞めておこう」


「何故ですか?コレを生かしておいたら」


「レニ…"私"の言う事に逆らうのか?」


(……私……か、取り繕う余裕もないか……)


ラミュアが普段使っている一人称は僕だ。

しかし今、彼女は私と自分を称した。

それは普段彼女が自分を私と称している証拠。

僕と言う一人称は彼女が自らに課した戒めの様な物だ。


「わかりましたよ、でもいいんですか?コイツを生かしておくと後々後悔する事になりかねませんよ?」


「殺す方が色々後悔する事になりそうだ、それに彼は僕達にとって良い掘り出し物になってくれそうだ」


「本気で言ってんですか?」


「あぁ、僕は何時だって本気だよ」


「はぁ…了解しましたよ、良かったな、お仲間は助けてもらえるらしいぜ?」



ぶっきらぼうにレンはレイラにそう告げる。

双方にこれ以上戦う理由はない、もはやそれどころではない空気が漂い始めている。



「……約束はどうなったんですかな?ラミュア女王陛下…」


「っ!そうだ、私達が戦っていたのは貴方の言葉を借りるなら試験、私達は貴方の試験に合格しているのか、どっちなんですか!」



ガノッサとレイラに詰め寄られるラミュア、

彼女はどっと疲れた顔をしながら答えた。



「合格だよ、是非ともフィーファ君の救出のお手伝いさせてもらうよ。」



かくしてフィーファを救出するためのメンバーは羽陽曲折の元決まった。


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