第53話 苦悩
レスティーナ王城の城下町には至る所に広場がある。
丁寧に整理された広場は潤沢に蔓延するマナを吸い生い茂り緑に囲まれ荘厳で美しい。
そんな広場で豪華な装飾がなされた母から譲り受けた剣を振るシェイン。
一定のリズムで毎日の日課である素振りに集中するが頭のなかは雑念で埋め尽くされていた。
「駄目だこんなんじゃ、毎日の日課を熟すだけじゃ劇的に強くなるなんて絶対に無理だ…、このままじゃ最強になるなんて夢物語だ…」
数日前に皆の前で宣言した最強になる発言に早くも陰りが見えてきていた。
シェインは魔法使いではない。
アリエスのように体や剣に魔法を乗せて身体能力を上げたり剣の切れ味を向上させたりといった裏技は出来ない。
というより知らない。
体内魔力、オドは生命力を魔力に変換したものだ。
この世界に生きる人間全てに備わっている。
しかしシェインはそれを引き出す方法を知らない。
アンティウス流剣術にそんな戦い方は存在していない。
だからシェインは知らないのだ。
オドを併用した剣術を。
「こんな時、先生がいたら、俺に戦い方を教えてくれたのか、あの爺さんに勝つ方法を教えてくれたのか…?先生…、どうしたらあの爺さんに勝てるようになれる…わからない…わからないよ、先生…、」
目指すべき成長のしかたが定まらない。
スランプとはまた違うのかも知れないがシェインは特訓の方向性に迷いが生じていた。
「せいがでるなシェイン」
「ガノッサのおっさん」
「一つ手合わせしてくれまいか?」
「っ!いいぜ、相手が欲しかった所だ!」
剣とハルバードが奏でる金属がかち合う音は空気に反響して周囲にキーンと響く。
ガノッサはずうたいがデカい分小回りが効かない、
シェインはそんなガノッサの鈍重な動きを素早い足捌きで常に視界の外に周り自分が優位に戦える環境を整える。
ガノッサも隙を見せれば立ちどころにシェインに攻め切られるからか守りを簡単には解かない。
シェインの体躯ならガノッサの一撃で簡単に勝利を取る事は簡単だ、故にシェインもガノッサに勝機を与えないように常に動き回る。
しかしそんな事をしていれば体力はいずれ尽きる。
若さにかこつけた戦い方はその若さに足を引っ張られる事となる。
「うわったっ!?」
石畳みに足がもつれ一瞬だが転けそうになるのをガノッサは決して見逃す事は無くハルバードがシェインに襲いかかる。
剣でハルバードを受け止めるがそのままガノッサのハルバードは勢いよくスイング。
シェインは吹き飛ばされて倒れ、尻もちを付いていた。
「焦りがあるな、以前より動きが雑だ、」
「……、」
「気にする程の事では無い、修練を重ねていれば……」
「それじゃあの王様に勝てない…今まで通りのやり方じゃあの爺さんに勝てない、……もっと抜本的な解決策が無いと最強とか机上の空論もいい所だ……先生がいたら、きっと教えてくれたんだ…勝つ方法を…。」
「ふむ…、私はグライン卿に会ったことは無い、だが卿の武功は伝え聞いている」
「先生の武功?」
「あぁ、グライン卿は現在のラティクス王の親友であり戦友だったのは有名な話だ、ラティクス王が今の座についた裏側にはグライン卿の助力の影響は計り知れない。」
「その話ならフィーファやアルフィダから聞いた事があったかな。」
「無論グライン卿が最初からそんなに強かった訳ではない、今のお前の様にたゆまぬ努力をしてきた結果だろうな」
「でも俺には…」
「まぁ聞け、グライン卿は王の戦友として支えるために常に戦場を駆け回った。あらゆる敵、戦場、武器に対応しなければならなかった。そうして卿が独自に開発したのがお前のよく知るアンティウス流剣術だ。卿は魔力に適正がなかったらしい、故にあらゆる敵、戦場、武器に対して剣術一本で常に勝利してきたと聞く」
「剣術…アンティウス流剣術だけで常に勝利してきた…」
「お前は自分の剣術に不満を持ってる様だがお前がかの御仁の弟子ならお前の中に既に正解はあるのだろう。」
「アンティウス流の中にあの王様に勝つ方法があるって事か…でも…」
結局はそれがわからないことにはあの王様に勝つ事は出来ない。
モタモタしていたらあのジジイはフィーファに何をするかわからない、悠長にしてはいられないんだ。
「お困りの様ですね…。」
話し混んでいた2人に唐突に話しかけてきた者がいた。
フードを被っているのでその顔を確認する事は出来ないが声からして男だとわかった。
「誰だあんた?」
警戒しながらシェインが相手にたずねる。
これは失礼と男は被っていたフードを少し上げシェインとガノッサに顔を見せた。
「ダークエルフ!?」
ガノッサが驚いた声を上がる。
フードの男の正体はダークエルフだったのだ。
「私はイノセントの使いの者です、イノセントは列国の一つに数えられてこそいますがまだその事実を受け入れていない人間は多い、失礼を承知で顔を隠す無礼を許して頂きたい。」
「それならば仕方ない事ですな、で、そのイノセントの方々がどういった要件で我々に?」
「えぇ、我々の長が元マグラーナの傭兵も交えて貴方方と話したいと仰っていまして、是非ともご同行願いたい」
「イノセントの長……、ラミュア女王ですか」
「はい。」
「何故こんなタイミングであの女王が俺達に?」
「それは我等が主から直接お聞きして頂きたく。」
「………。悪いが今は急いでるんだ…」
「まてシェイン、彼等の話に耳を傾けるのも一計の価値ありだぞ?」
「…?」
「そもそもお前は相手が国王だけだと考えていないか?国王を相手にすると言うのは国そのものを相手にすると同義なのだ、その事は理解しているのだろうな?」
「……」
「元来王とは王座に腰を据え人に指示を出す立場の者だ、前線に出て戦うなど異例中の異例、あの時は王がお前の相手をしたが今度も王が直々に出てくる等と思はない事だ」
「………、話はわかるよ、でもイノセントのいざこざに今首を突っ込んでる余裕は俺達には…」
「だからこそだ。」
そう言ってガノッサはシェインの耳元に顔を近づけると小声で言った。
「ラミュア女王に上手く交渉すれば戦力を分けて貰えるかも知れない」
「!?」
「話はまとまりましたかな?」
「えぇ、待たせてしまって申し訳ない、それで我々はどうすれば?」
「準備が整いましたら再びこの広場にお越しください、主の元へ案内させて頂きます」
「了解した」
シェイン、ガノッサ達は一度ガノッサ邸に戻りレイラに先程合った事を話した。
話を聞いたレイラは怪訝名顔をして迷いながらも言った。
「信用してもいいのでしょうか?」
「ラミュア女王はフィーファ様と契約を結ばれている、無下にはしないと思うが?」
「ラミュア女王ではありません、そのダークエルフがです」
「?」
「アルフィダの言ったアングリッタが危険ならそのダークエルフとアングリッタも何かしらの繋がりがあるのではないですか?罠の可能性も。」
「いや、その可能性はないだろう」
「何故そう言い切れるのですか?」
「ならば逆に聞く、罠に嵌める価値が我等にあるのか?
アングリッタ側からすれば我等など取るに足らない存在だ、フィーファ様がいない今の我等に政治的価値はない。回りくどい事をしてまで我等に罠を貼る意味がない。」
「しかし、信用出来るのですか、ダークエルフは…」
「信用するしかないだろ、今の俺達には戦力がまるで足りない、どんな用か知らないが恩を作って相手を利用したい。」
「そうだな…、フィーファ様を助けるには同じ列国のバックアップが必要だ、そこまで頭が回るとは流石だなシェイン」
「え…?違う…俺の案じゃない…ガノッサだ。」
「ああ…成る程…ガノッサ殿だったか」
シェインにしては随分と理性的な判断だったがガノッサの案だった事に妙な納得の仕方をするレイラ。
若干ふてくされるシェイン。
そんなシェインの様をみてクスクスと笑うガノッサとレイラ。
3人はそのままガノッサ邸を出て先程の広場へと向かう。
平場には日向ぼっこをしている老人やなにやら談笑している町民がちらほらといるが辺りを見渡してもそれらしい人物は見当たらない。
「いないな?」
「やはり罠だった?」
「いや……、」
シェインが背後を振り返るとそこには先程出会ったフードを被ったダークエルフがいた。
ダークエルフは感づかれた事に対してなのか若干驚いた顔をしたいた。
「背後を取るのは趣味が悪いんじゃないか?」
「っ、申し訳ありません、ついつい悪い癖が出てしまった様ですね、しかし驚きました、まさか感づかれるとは…。」
「それで?案内してくれるんだろ?」
「えぇ、勿論です、同行願います」
「その必要はないよ」
声のした方向に振り向くと尖った耳に浅黒い肌をしたダークエルフの特徴に加え、美しい金の髪と女性を象徴する魅力的な体躯の美女がそこに立っていた。
男であれば当然、女であっても彼女の持つ魅力に惹かれてしまうだろうと断言できる程の存在感を彼女は持っていた。
「遅いから来ちゃったよ」
「らっ、ラミュア様ーっ?」
突然自分の組織のトップが無警戒に現れた事にフードのダークエルフは顎が外れる程に驚いていた。
今のやり取りで彼のシリアスなキャラが完全に瓦解している、少し可愛そうだ、!
「らっラミュア様、ここは人間の国ですよ!顔を隠して下さい!」
「ここは列国の同盟国だよ、どうして僕がコソコソしないといけないのさ!変な気を使う必要なんてないだろ?」
「いえ、しかしですね……」
実際突然ダークエルフが広場に堂々と現れたためか、めちゃくちゃ注目を集めている。
しかしこの注目の集まり方はどちらかというとダークエルフうんぬんよりもラミュア個人への意味が大きい。
注がれる視線も頬に紅がさして明らかに警戒より見惚れている割合が強そうだ。
「久しぶりだね、シェイン、あとその他の方々」
ガノッサとレイラが不満げな顔をする。
気分を整えたガノッサが3人を代表して彼女に話かける。
「まさかイノセントの女王陛下自ら出向いていただけるとは思いませんでしたな、我等にいったいどのようなご用向で…、」
「うん、実は面白い物をこの国で見つけてね、一緒に見学しに行こうと思って誘ってみたんだよ、フィーファ君が留守なのは残念だね」
「そんな事のために俺達を巻き込むのかよ、俺達はいま、」
「知ってるよ、フィーファ君はお祖父様に捕まってるんだろ?まったく僕との約束を護ってくれる気があるのか不安になるね」
「なに!?」
「そう怒らないでよ、僕は君たちに喧嘩を売りに来たんじゃないんだ、それにこれは君に対しても他人事じゃないんじゃないかな?」
「はぁ?」
「君はずっと探してた人物がいるだろ?その手がかりになるかも知れないよ?」
「探してる?別にそんな奴いないが?」
シェインの頭の中にある存在が思い浮かぶ。
でもこの一件に関係している訳がない。
頭から振り払い雑念を消そうと努力する、が
「おや?そうなのかい?ずっと探してたんじゃないのかい、産まれて間もない君を置いて消えた父親の事を?」
そんな努力はシェインの頭から消えうせていた。
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