第50話  最強の剣士




どこまでも続く白い世界



果がなく、終わりが見えない



全てが白で統一された何もない世界



そんな世界で俺だけがたった一人


少年の記憶。


少年の意識。


青年の記憶。


青年の意識。


それ等がごちゃ混ぜになって1つになるイメージ。


寂しい、悲しい、一人は嫌だ…。




「一人は寂しいの?」


「一人は寂しいだろ…普通……」


「一人は悲しい事なの?」


「悲しい事だと思うよ…?」


「嫌なの?」


「嫌だな…」





「なら…………………」






「はっ!?」


目が覚めると見た事もない部屋に寝かされていた。

体中が包帯でグルグル巻だ。



「ここは……、」


「目が覚めたんだな、起きないんじゃないかと心配したぞ?」


「レイラ……」


「ここはガノッサ殿の屋敷だ、心配はいらない、」


「……、フィーファは!?フィーファはどこ行った!」


「……覚えてないのか?」


「……、いや、覚えてるよ、もしかしたらって思ったんだけど…、でもそっか、いないか…」


老人、王様に完膚無きまでに完敗した。

歴然たる差を見せつけられた。

でもそんなことはどうだっていい。

俺は約束を守れなかった。

いや、守れてすらいない、こんなのは途中放棄も甚だしい。

マグラーナの脅威はさったかもしれない。

しかしアルフィダはアングリッタに気をつけろといった。


ならフィーファはまだ安泰を手に入れてなどいないんだ、俺の出る幕はまだ終わってなどいない。


しかしホントにそうか?

レスティーナ王は強い

シェインなどとは比べるべきもなく、

歴然たる差を見せつけられた。


王がフィーファを守るならコレ以上の力はない。

俺はお役御免なんじゃないのか?


そんなよくない考えが浮かんでは消えていく。



「レイラもこっち側なんだな、てっきりアッチだと思ったよ、」


「無茶を言うな、王は私をフィーファ様の元に二度と近づける事はないだろう。殺されなかっただけ重畳だ…。」


「そりゃそうか、俺達お役御免だな。」


「何をいっている?」


「は?」


「私はフィーファ様の近衛騎士だ、彼女を守る事こそ生き甲斐だ」


「は?必要ないだろ、見てただろ、王様の強さ!手も足も出ないとはこんな感じだってくらい完敗だ、俺達がなんとかしなくても王様がなんとかしてくれるさ!」


「本気で言ってるのか?」


「本気だよ、他になにがあるってんだよ!」


「シェイン、私を失望させないでくれ、お前はもっと馬鹿正直な奴だろ」


「なんだよ、馬鹿正直って、馬鹿にしてんのか!」


「ならフィーファ様は私が一人で助け出す!」


「はぁ!?出来るわけ無いだろ」


レイラの思いがけない言葉に驚き仰天するシェイン


「たしかに私はお前より弱いよ、お前と王の戦いに加勢する事も出来たかも知れない、でも足がすくんで動けなかった、」


「……なら!」


「それでも私は彼女を助け出すよ」


「どうするってんだ!どう考えても無理だろ…」


「フィーファ様が泣いていた事、お前は気付いていただろ?」


「………。」


「あそこに彼女を一人にしておくわけにはいかない、あの王は異常だ、王様は元来あのような性格では無かった、あの様にフィーファ様を人形の様に扱いはしなかった…」


「でも…、俺には…」


「彼女は私にとって始めて出来た友達なんだ」


「友達…」


「私みたいな孤児と列国に名を置く大国の姫君が友情など失笑物か?」


「そんな事いってないだろ」


「彼女は泣いていた、私達の命と自身の自由を天秤にかけ彼女は私達の命を優先してくれた、辛かっただろうな、形はどうあれ、彼女は私達を拒絶しなければいけなかった」


「……、」


「彼女は自分に害意を持っていた私を許し、友達になってくてた、あまつさえこんな私を騎士にすると言ってくれた、その期待に答えないでなにが騎士か!なにが友達か!」


レイラってこんな熱い奴だったんだな。

髪色や目の色が赤い割に冷めた奴だと思っていたんだがなるほど、見た目通りの奴だった。

なんて場違いな事を思っている事を悟られたらきっと彼女は憤慨するだろうな。

友達……、そうだ。

彼女はこんな俺にとっても友達と呼んで良い存在なのかも知れない。

村には友達なんていなかった

いつも棒を振り回す俺を皆奇怪なものを見る目で見てきた。

フィーファがいなければ村を出て旅をして、いろんな経験をしていろんな体験をすることなんてなかっただろう。


前世の俺が言う…諦めてしまえばいい。

きっとその方が楽になれる。

友情なんて形の無いものはいつか瓦解する。

年を取り形骸化して消えて無くなる。


フィーファとはこれで最後になるけどどうせ時間が解決してくれる…。 

だから気にするなと。

忘れたら楽になれると…………






巫山戯るな!!!!



冗談じゃ無い!!!

俺は俺だ!!お前じゃ無い!!

お前と…昔の俺と今の俺を一緒にするな!!!


最初に言ったじゃないか、

俺の出る幕はまだ終わってないと!


「たしかにあの老害にフィーファを任せるなんて考えたくもないな!」


「一国の王に対して失言では済まされない発言だな、まぁ私個人としては同意だがな!」


「でも、如何ともし難い実力差は何ともできない…そこをなんとかしないと…、」


「諦めるのか?」


「そんな事いってないだろ!でも根性論でなんとか出来る問題じゃない。王様は強い…」


「なら強くなればいい」


「強く?」


「私だって日々の鍛錬を欠かした事はない、いつかはお前を抜いてやるさ、腑抜けたお前なら造作もなさそうだしな」


「はっ!舐めんなよ」


「その生きだ、どうせなら最強を目指してみろ」


「最強って…大げさな、」




レイラの突拍子もない言葉に若干引くシェイン、

しかし2人のいる部屋のドアが勢いよく開かれガノッサが入室してきた。



「ふむ!よいではないか最強!じつに結構!」


「おっ、おっさん」


「この国の姫君を守ると豪語するのだ、最強の一つや2つ、なって貰わんと困るな!」


「簡単に行ってくれるぜ」


「好きになった女を守るのだ、大言壮語も時には必要だと言う事だ」


「好きとか!そんなんじゃないってんだろ!」


「まだそんな事を抜かしておるのか貴様は!」


「はぁ、似たもの同士ですね、」


「はぁ?似たもの同士?」


「フィーファ様もお前の事を好いていらしたよ、まぁ、もっとも彼女は自分の気持ちに気づいていらっしゃらなかったようだが、私と2人の時は大抵はお前の話題ばかりで辟易したものだ」


「ふぃ…フィーファが…俺の事を……」


「ずっと一人でおられたからなぁ、そのような感情、持ったことがないのだろうよ、」


そうガノッサが話を閉める

いきなり過ぎる情報に頭がパンクしそうになる。

フィーファが俺の事を…?

そんな素振り今まで一度だって…


「当たり前だろ?フィーファ様はお前の前ではいつも毅然とふるまわれていた、無自覚でだろうがお前に恥ずかしい所を見られたくなかったのだろう」


「何だよそれ……ふざけんなよ……」



シェインのなかでムカムカとした感情が込み上げてくる。

苛立ち、自分への?フィーファへの?

国王への、いや、あんなジジイはどうだっていい。


とにかく腹立たしい。

フィーファの態度にもそれに一切気づかなかった自分の鈍感さにも。

全く…これじゃハーレム物の主人公の鈍感っぷりを笑えないじゃないか…。


「最強……か…。」



そう呟いたシェインを温かい眼差しで見守るレイラとガノッサ。


「なれるのか…俺に……いや、なってやる!好きになった女を守れるくらい強い最強の剣士に!!俺は…なってやる!!」

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