第41話 勇者の最後その2
あれから2日が経過した
アノスは両目をくり抜かれ、現在は義眼を埋め込まれている、視力はなく物を見ることは出来ない。
また喉元は斬り刻まれ声を出す事も出来ない。
早い話が会話ができなくなっていた。
マグラーナの地下牢に軟禁され両手を縛られ身動は取れなくなっている。
少年がアノスから声と目を奪ったその瞬間からアノスに呪い、“洗脳゛をかけられた人々、主に女達は皆アリエス達と同様に発狂したように奇声をあげ暫くしてから倒れ込んだ。
彼女等が目覚めてからの反応は一貫していて両親、兄や弟などの血縁者、恋人や婚約者、恩師や友人それら身近にいるものに謝罪をするなどだがただの謝罪ではない。
まさに死物狂いでその勢いはまさに鬼気迫る物だ。ただならぬ勢いから強い危機意識を持って行っているのが見て取れた。
その中でもとりわけ酷い者は自殺しようとする者が現れる程だ。
洗脳から目覚めた彼女等は洗脳時の記憶をしっかり覚えており、自分達が取り返しのつかない行動、言動を繰り返した事を克明に覚えている。
謝罪で済む者も中にはいるがより重度の洗脳を長期間されていた者はそれだけ罪悪感や後悔も色濃く自殺などという手段で許しを得ようと現実逃避を図るのだ。
精神的に不安定な者が多く現れ正にマグラーナは阿鼻叫喚の監獄といった具合だった。
そういった者達はフィーファの指示で王城の各部屋に集められフィーファ自身が回復魔法を使いケアを行って回るが精神的な傷、トラウマには効果は薄く根本的な解決にはなりようがなかった。
「私のせいだ……私が余計な事をしたから……」
フィーファは自分を責めていた、勇者アノスを追い詰めたばかりにこの様な事になった。
それは事実だがフィーファはアノスから目を奪う等は"考えていなかった”のだ。
つまるところアノスが能力を持ちそれを悪用していた事を知る者がこの騒動のどさくさに紛れアノスの目を抉った事となる。
オマケにすぐ側にマグラーナ王の死体まであるのだからこの二人に強い怨みを持つものがやったのは明らかだろうとフィーファは考えている。
となるともっとも怪しいのはアノスの兄、アレクだ。
彼は弟のアノスに人生そのモノを狂わされた存在の第一人者だ。
だがアレクはフィーファと行動を共にしていたし、王を殺そうとまでは考えていなかったはずだ。
ならば王族関係者か、今回の騒動の協力者である王族近衛騎士団長のガウスや大臣のロンドなどの重鎮達、彼等が最も怪しいのではないだろうか?
彼等は王に対して強い不満をもっていたし、勇者の言動に悩まされていた。
そしてフィーファ自ら勇者の力に対して語っている。
しかし王とともに国を支え繁栄へと導く仲間から首を狙われるというのはどんなモノなのだろうか?
近衛騎士たるものが護るべき王に手を掛けるなどそんな考え…同じ王族の身として考慮したくなかった。
無論これは感情論で可能性の一つとして頭に残して置かなければならない。
「はぁ…」
「あんま根詰めすぎるなよ、今は出来る事を一つずつこなしてくしかないんだからさ。」
「はい、ありがとうございますシェイン…。でもどうしても考えてしまうんです…あの時こうしてればって…」
「仕方ないさ、フィーファが悪いなんて誰も思ってない、それにお前があの時アレクを行かせてたらもっと最悪な事態に直面してたかも知れないしさ」
あれからアレクは気を失い今までずっと眠っている、血を失い過ぎたこともあるが日々の激務による疲労や過労、睡眠不足が一気にしわ寄せで来たのか未だに目覚める事はない。
怪我はフィーファの魔法によって完全に塞がっているが体力は著しく低下しており、油断を許さない状態である。
そしてそんなアレクを看病しているのがアリエスとプリシラの二人だった。
二人もまた呪いの解呪に伴い正気に戻っている、しかし他の女性達同様に記憶は残っている。
無論アノスとの忌まわしいなどと言う言葉では到底表しきれないおぞましき記憶もしっかりと覚えている。
二人は自殺を図った。
それもなんの躊躇もなく、
シェインが止めなければ二人は今頃この世にはいなかったろう。
「止めないでくれ!死ぬくらいしか私にはアレクに償えない、死なせてくれ!」
「お兄様にどんな顔をして会えばいいの?こんな汚れた体で!もういや!死なせて!死なせてよー!」
そう喚き立てる二人の女達、
そんな二人にシェインは言葉をかける。
「別に好きにすればいいけどお前らホントに自分勝手だな、」
「なんだとっ!」
「はぁ!?」
シェインを射殺さん勢いで睨みつける二人に構わずシェインは続ける
「死んだらお前らは清算したつもりになれて楽になれんだろうけどアレクは決してお前等を許したりは出来なくなるだろうな、ずっとお前等を恨んで生きてく事になる、ある意味お前等がアレクの人生をホントに狂わす呪いになるんだろうな、良かったな!今度はお前等がアレクの呪いになれるんだ、やったな!」
「きっ貴様!!」
そう叫んでプリシラはシェインの胸ぐらをつかんで締め上げる、しかしそれでもシェインは平然と言ってのける
「何キレてんだよ…、ホントの事だろ?死んで逃げようとしてる臆病者が!」
「おっ…、お前に何がわかる、アレクの事を知ったようにペラペラ偉そうに!!」
「アレクの事なんか俺にわかる訳ないだろ。
ただ殺したい程憎んだ事のある奴に逃げられたらやるせなくて死にたくなる程に悔しい気持ちになる事はわかるつもりだ。
そいつが死んでるのか死んでないのか分からないから探し出してぶん殴る事は出来る。
でも死んでちゃ殴る事も出来ない。
お前等がやろうとしてんのはアレクから復讐する相手すら奪う行為なんだ、と俺は思う。」
「……………。」
「………、」
「俺は昔殺したい程憎んだ事のある奴がいる。
そいつは俺の父親代わりの恩師を殺して逃げ出した臆病者だ、殺してやりたいと思った事は一度や二度じゃない、でもソイツは俺の前に現れた、現れて生涯をかけて償うといった、だから俺はソイツの生き様を見届けるつもりだ。あんた等にそこまでの覚悟があるのか?ないから自分勝手って言ったんだ。」
「どうしたら良いって言うのよ、今更…」
「だから知るかよ、まずは無難に謝りにいけよ」
「そんなの無理よ、許してもらえるわけない、」
「はぁ…知らねーよ、ホントに、そこでうだうだ悩んでろよ。」
「私には…。」
「私、お兄様の所に行く。」
「プリシラ!?」
「お兄様に許して欲しい、でもその前に私にはしないといけない事がある。」
そう言ってプリシラは走り去って行った。
「そんな…、。」
「アンタはどうすんだよ?」
「行くわ、あの子を一人だけに出来ないもの…」
「ふーん、なら早く行けよ、」
「………、わかってるわよ、」
そういって二人はアレクが眠っている部屋へと向かっていった。
おそらくだがあの二人がいればアレクは大丈夫だろう、少なくとも洗脳されてた時みたいに雑に扱いはしない筈だし、これ以上部外者が口を挟むのはお門違いだと割り切りシェインはその場を離れフィーファと合流し、今に至る。
アノスの呪いが解けたあとは想像以上に異常な事態となっている。
そこかしこから自殺志願者や謝罪の声を上げる者、発狂したりむせび泣く者達で溢れかえっている。
たしかに予測出来た事態かも知れないがこんなのを一人の少女がなんとか出来る許容値を超えているだろう。
城付きのメイドや執事、騎士達が対応しているが手が回っていないのは明らかだった。
そもそもこの事態に陥った原因を彼等は知らない。
勇者の呪いの事を知るのはシェインやフィーファ。そしてこの国の重鎮達と騎士であるガウスを始めとする一部の騎士のみだ。
ほとんどの者達は突然発狂した者達の介護を押し付けられた形だし、説明の一つも欲しいのが正直な所だろう。
「この者の心を癒やしたまえ!ヒール!」
「あぁぁぁぁ、あ…あっ…すぅ、すぅ…」
「ふぅ…、」
フィーファのヒールには相手の精神に干渉して眠りを誘発する力がある、それを利用して眠らしているが効果は薄い、そもそも傷を癒やすヒールの本来の使い方ではないため効き目が芳しくないのは当たり前の事だ。
しかしやるかやらないかでは効果は違ってくる。
だからフィーファは必死に発狂する者達にヒールをかけていく、もちろん膨大な魔力を持っていても術を使うフィーファの体力は枯渇していく。
額に汗を溜めながらも必死に。
そんな時に発狂者が押し込まれた部屋のドアが勢いよく開け放たれ白い修道服に身を包んだ者達がなだれ込んできた。
その中から集団の中心的存在かと思わしき人物が声を発した。
「我々は白銀(はくぎん)聖魔導教会というものです、此度は聖女フィオナ様の命により馳せ参じました。」
そう言った神父の様な格好をした男の後ろから現れたのはシェインが最も苦手とする女。
「2日ぶりですね、フィーファ·レスティーナ様、それと……シェインさん♪」
聖女を名乗る外道、フィオナが現れた。
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