第7話 退屈な日々にお別れを
「ちょ!?勝手に入ってくんなよ!」
「何いっちょ前にいきがってんのよ、見られて何か困る物でもあるわけ?」
「……いや、ないけど…?」
「ならいいでしょ」
そういって母親はずけずけと俺の部屋に入って来た。 いったいなんの用だろうか? 今は1人にして欲しい気分なのだがそんなの知ったこっちゃ無いと言わんばかりに母親はベッドに腰掛ける。
「アンタあの騎士のおっさんにコテンパンにやられて拗ねてんでしょ?たくっだらしないわねー」
「なぁっはぁ!!?」
痛い所を疲れて上ずった声が出る、動揺してるのが透けて見えてつい虚勢を張りたくなる。
「何年アンタの母さんやってると思ってんのよ、全部お見通しよ、アンタの考えてる事なんてね、」
「はぁ?そんなんじゃねーよ、馬鹿にすんな!俺は!」
「怖かったんでしょ?」
「っ……!」
「アンタはまだ子供なんだし怖がったってなにも恥ずかしい事じゃない、死ぬ事が怖くない人間なんかいやしないし、大人でもそれは同じ。」
怖かった…。
それは大人も同じ。
そうだ…前世の俺も…もう嫌だと死んでしまいたいと口癖の様に拗らせていた。
しかし自ら死を選ぶ事は出来ない。
何故かって?
そんなの決まっている…怖いからだ…。
今の
俺は怖かった。
目の前の本物の殺意が、獣とかではなく生きた人間から向けられる本物の殺意が…俺は怖かった。
「正直言うとね私はアンタにはこの村で好きな娘でも作ってその娘と結婚して子供も作って普通の村人として普通の生涯を送って欲しいって思ってる、剣なんて危ない物振り回して欲しいなんて思わない、でもアンタはそんなの嫌なんでしょ?」
「………。」
母親として真っ当な言葉だ。
誰だって普通を好む。
ありふれていて特別でもない普通の存在。
それで良いと俺は思っていた。
誰かの特別になんてならなくていいと…
しかしそんなのは
「シェイン、これはアンタの人生だよ、アンタの好きなように生きたらいい。ただ、悔いとか後悔が残らない様にするんだよ、後から悔やんでも何にもならないからね、」
「…母さんは悔いとか後悔とか…あるの?」
「当たり前でしょ?悔いと後悔しかないよ…本当、やり直せるならやり直したいよ」
「そうなんだ…」
「だからかな…アンタにはそんなモノとは無縁の人生を生きて欲しいと思ってるよ」
「意外だな、なんか、母さんは頭ごなしに否定してくるもんだと思ってた。」
「さっきもいったけど本心ではアンタに危ない事なんかして欲しくはないよ、でもアンタはほっといたらきっといつか勝手にこの村を出て行くでしょ…それならいっそ、母親として息子を送り出したいってだけなのかもね。」
「母さん、俺…覚悟もなんもできちゃいない、でも約束したんだ、護ってやるって、だから俺…行くよ」
「そっか…そうね、わかったわ、ちょっと待ってて、」
「え?」
そういって母さんは俺の部屋から出て行くとあるものを持って戻って来た。
母さんの手もとには細長い何かを布でぐるぐる巻きにされた物が握られていた。
「これをアンタにあげるわ」
母さんが俺に手渡した物はずっしりと重くそれがなんなのか感触から察することが出来た。
視線で開けていいかを母さんに確認するとコクリと頷いたので俺は厳重に巻かれた布を剥がすと中からは予想通り剣が出て来た。
「これって…」
しかもただの剣じゃない、 金の装飾がなされたとても高価そうな剣で一介の村娘でしかない母さんがこんな物を持ってる理由が思い当たらなかった
「なんでこんな物が…」
母さんに聞こうとした時だった。
「シェイン!!クリスさん!!2人とも!!」
出入り口を兼ねる我が家のドアの前から聞き慣れた声、ロイおじさんの声が聞こえてくる。 その声は酷く焦っていてただ事ではないことを示していた。 急いでドアをあけるとロイおじさんは間を置かずに
「速く逃げないと!」
と急かしてくる。
「どうしたんだよロイおじさん、少し落ち着けよ!」 「落ち着いてる場合なんてないんだよ!速く逃げないと!」
「ちょっと本当に落ち着いて、どうしたのロイさん、事情がつかめないわ、」
そうロイおじさんに語りかける母さんをみて冷静になれたのかロイおじさんは痰を切ったように叫んだ、
「モンスターが村の中に入ってきて村人を襲ってるんだよ!」
「!!?」
ロイおじさんがそんな事を言う。
信じ難い事を。
俺はこの後直面する事となる。
穏やかで退屈な世界ではない。
退屈な日常との乖離に。
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