【3000PV突破!】モノクロームマジカルハート

@himeyuli

第一章 胎動

第1話 覚醒

 平穏の日常なんて物はいとも簡単に破られる。それは歴史が証明してくれる事だろう。

 二度に渡る大きな世界大戦が終わり、細々とした戦争も終わり、あちこちで紛争は続いているものの、世界は平和の一途を辿っていた。

 しかし、やはり平和は突然終わるものだ。


 西暦20XX年。突如として世界各地にソレは現れた。

 最初は日本の東京、銀座だった。

 その形は誰が見ても門だった。派手な装飾が施された漆黒の門。それがなんの前触れもなく突然現れた。

 突然の事態に、当然の如く世界中は混乱した。各国が軍を派遣し、警戒体制を整え終えた時、まるでそれを待っていたかのように門は開いた。


 門から現れたのは、それまで人類が見たことのない生物だった。いや、空想の中では呆れるほど生み出される生物だった。

 まず最初に現れたのは、緑色の人型の生物。背は低く、手には棍棒を持っていた。

 次に現れたのは茶色い人型の生物。体格は大きく、手には錆びた鉈の様な刃物を持っていた。

 その次に現れたのは狼を二足歩行させた生物。

 その次は巨大な芋虫の様な生物。

 その生物達の異様さは誰が見ても明らかであり、そして人類に友好的ではないのが見て取れた。


 その予想は即座に現実の物となった。

 門から現れた生物達は、その場にいた軍隊に襲い掛かった。そして始まったのが、大量虐殺である。

 各国の軍隊は応戦するも、銃弾は生物達に食い込むことはなく、弾かれた。戦車と航空機を持ち出して、ようやくまともに戦える様になった物の、圧倒的物量によって劣勢に追い込まれた。

 生物達はその場の軍隊殲滅し、さらに民間人へと襲い掛かった。

 男なら問答無用に殺され、女はその場で犯された。大人も子供も関係ない。その場の全ての人類へと襲い掛かったのだ。


 そうして、人類の生存圏は次第に狭まっていった。

 国は急いで安全な都市周辺に要塞を建築し、避難民を受け入れる体制を整えた。

 この要塞によって人々は平穏を最低限取り戻した。

 しかし、やはり平和は続かない。

 

 門が出現してから半年ほどが経過した時、要塞都市の中に、門が出現した。

 その場所はやはり、日本だった。

 門は即座に開き、生物達が現れる。

 そうして、再び大量虐殺が起こる。


 はずだった。


 先頭にいた生物がその場にいた人達へ襲い掛かろうとした時、一筋の光によってその生物は消し飛んだ。

 その場にいた人達も、門から出てきた生物達も、呆然と立ち尽くした。

 その全ての視線は空中に集められた。

 空中に佇むのは、一人の少女だった。


 結果として、人類側に被害は出なかった。

 その少女が、全ての生物を殲滅したからだ。

 少女は言った。自分は魔法少女だと。

 その日を境に、生物達による虐殺は減っていった。

 それと同時に、魔法少女は数を増やしていった。

 魔法少女達によって、我々は平和でいられるのだ。




「何が魔法少女だ……くだらない」

 要塞都市の外れ、住人が一人しかいない小さなアパートの薄暗い部屋で、テレビを見ていた少女は呟いた。

 そのテレビには、『今話題の魔法少女!人気ランキング!!』と言う文字が浮かんでいた。

「魔法少女なんて信用できない……。例えどんなに奴らを殺しても、犠牲者は出るんだ。その上アイドル染みた事してるし」

 無気力に呟き、無気力にカップ麺を啜る。再びテレビに目を向けた瞬間、外からサイレンが鳴り響いた。

『ゲート出現!ゲート出現!魔物の出現を確認しました!近隣の皆様は直ちに安全な場所へ避難してください!これは訓練ではありません!!』

「またか……この1週間で4回目だよ……」

 

 のっそりと立ち上がった少女は窓の外を眺めた。特に代わり映えのしない街の景色が見える。


はずだった。


「……は?」

 少女が困惑の声を上げた瞬間、目の前の壁が破壊された。

 大きな穴の外から、自分を覗いていたのは、体格の大きい魔物、『オーク』と呼ばれる生物だった。


《ほほぉ……これはこれは。芳醇な魔力マナを感じて来てみれば、中々上玉ではないか》

 そう言うオークは舌なめずりしながら、少女を見下ろす。

 その気持ち悪い視線は、女性なら即座に強力な嫌悪感に襲われ、恐怖で足がすくむ。

 しかし、この少女は違った。

「はぁ……結局こうなるのか。ま、生きてても大して面白くない人生だし……もう良いか……」

 少女は目を瞑り、全身の力を抜いた。

 予想していなかった少女の行動に、オークは多少面食らった顔をしたが、直ぐにニヤニヤと目つきを変えた。な

《諦めが良い女だ。今回は楽に済んだな》

 ゆっくりと手を伸ばすオークを見ながら、少女は過去を振り返った。


(思えば碌な人生じゃなかったな……親は消えるし、澪華は殺されるし……どうせなら、役に立たない魔法少女共の敵を増やすか……)

 オークの手が少女にさらに近づいていく。

(ごめんね、澪華……でも、もうすぐそっちに行くから……)

 ふと思い浮かぶのは一人の笑顔。今はもう見ることの叶わない、最愛の人の笑顔。

(あぁくそ、やっぱり悔しいなぁ……せめて、澪華の仇くらいは取りたかったなぁ)


 今はもう叶わない願いを強く思う。それでも諦めた顔をした少女は、オークに身を任せようとした。

 しかし、その瞬間。オークが少女を掴もうとした瞬間。突如として少女は眩い光に包まれた。


《ぬぅっ……!!こ、この光は、ま、まさか……!!》

 オークの狼狽えた声が聞こえる。少女は困惑した顔で自分の姿を見る。

「嘘でしょ……何で私が……!」

 愚痴を零すと同時に、頭の中に強烈な知識が流れ込んだ。

 それはこの場を潜り抜けられる知識であり、少女が忌み嫌う知識であった。

《ふ、ふふふ……これは僥倖……!魔法少女を捕まえられるとは!》


 今までで一番緩み、醜くなった顔。その顔を見た瞬間、少女は強烈な殺意に襲われた。

 その顔は、少女にとって最も嫌いな顔だったのだ。

「ねぇ……その顔を……しないで」

 呟いた瞬間、少女の手には一丁のマスケット銃が現れた。

「【ノクティルカ・ルナ】 《ショット》」

《なっ………ちょっと待…………!!!!》

 オークの言葉は最後まで発せられなかった。

 一発の発砲音と共に放たれた弾丸は、オークの顔を撃ち抜き、その醜いにやけ顔を消し飛ばした。

 頭を消し飛ばされたオークは、後ろへ倒れながら塵となって消えていった。

 その光景を、少女は光の宿らない目で眺めた。

 これは少女が、魔法少女を憎みながらも、自らが魔法少女となった瞬間であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る