日日

まも

日日

 普段と何一つ変わらない、いつもの帰り道、帰宅部の僕は、まだ日が高いうちに家路につく。

 形態化したいつも通りの日常をなぞるように、玄関の扉を開き、靴を脱ぎ、家に上がった。

 けれど今日は、喉の渇きが妙に気になってしまった。普段なら気にも留めないだろう。でも今日はそれが引っかかった。

 仕方なく足早にキッチンへ向かい、食器棚に手を伸ばす。瞬間、空間がぐにゃりと歪む 。

 触れたコップが、僕の手をすり抜けて床に落ちていった。


 コップの砕ける音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。



 歪みが渦を巻いて僕を飲み込んでいく。怖かった。

 日常とは思ったよりも脆いもので、ふとした瞬間に簡単に壊れてしまう。

 人間がいつか必ず死ぬように、日常にもいつか必ず終わりが来る。

 その怖さを押し殺すように、いつも通りを、ただ機械的に演じた。

 平凡で、平均的な人間でいることが、いつもと変わらない日常を保証してくれると、そう信じていた。

 

 ――なのに、コップが割れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日日 まも @mamo921

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る