第7話

翌朝、私は6時に起きて、朝ごはんの準備を始めた。

炊飯器や鍋といった炊事道具は、幸いにも前の大家さんが使っていたものがそのまま残っていて、ありがたく拝借することにした。

朝食の時間については、最初はもう少し早い時間を提案していたのだけれど——

宇津井さんも長岡さんも、今は会社勤めではなく、それぞれ独自の方法で生計を立てているとのことだったので、少し遅めの朝食会に落ち着いた。


メニューは、私の得意な和食。

炊きたての白ごはんに、出汁をきかせたお味噌汁。

焼き鮭、卵焼き、ほうれん草のおひたし。

そして、ちょっとした箸休めにお漬物を添えて——

自分で言うのもなんだけど、なかなかの朝ごはんセットになったと思う。


ちょうど朝ごはんを作り終わったころ、二人がやってきた。

長岡さんは「俺も料理はイケる口だから、一緒に作ろうぜ」と言ってくれたし、

宇津井さんも「……食器を並べる……くらいなら……」と、ぼそっと申し出てくれた。


でも、今日は最初の朝ごはん会。

どうしても、自分一人の手でやり遂げたかったから——

二人の申し出は、やんわりとお断りした。

互いに「おはよう」と声を掛け合い、二人には中に入ってもらう。


「旅館の朝食みたいだな、美味そう」

「……食べきれるかな」


並べられた料理を見て、二人はそれぞれのテンションで感想を口にした。

長岡さんは目を輝かせていて、宇津井さんは相変わらずぼそぼそと、でも視線はしっかり料理に向いている。


「ちょっと張り切りすぎちゃったかもだけど……“さいしょ”だから」


私は照れ笑いしながら、湯気の立つ味噌汁をテーブルに置いた。

出汁は昆布と鰹節から取った、ちょっと本格派。

具は豆腐とわかめ、そして刻んだ長ねぎを少し。


「いただきます」


私が手を合わせると、二人もそれに倣って、静かに「いただきます」と声をそろえた。


「……うん、うまい。味噌汁、出汁からとったのか、凄いなぁ。時間かかったろ」

「いえ、そんな。インスタントじゃちょっと寂しいかなって思って」

「……卵焼き……甘い……」


宇津井さんが、ぽつりとつぶやいた。

卵焼きは、砂糖を少し多めに入れるのが三瀬家流だ。


「えっ、甘すぎました?」

「……いや……オレ、甘いの好き……」

「ふふ、よかった」


私は思わず笑ってしまった。

二人とも、言葉は少ないけれど、ちゃんと味わってくれているのが伝わってくる。


「……こういうの、久しぶりかも」


宇津井さんが、ぽつりとつぶやいた。


「誰かと一緒に朝ごはん食べるの、ってこと?」

「……うん。……なんか、変な感じだけど……嫌いじゃない」

「こういうの、結構いいんだよな。同じ釜の飯を食う、ってやつだ」


長岡さんが笑いながらご飯を口へ運ぶ

私もお漬物を口に放り込み、なんだか胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じていた。

やっぱり、誰かとご飯を食べると、心がふわっと満たされる気がする。


食後、私が立ち上がって食器を片付けようとすると——


「さて、皿洗いは俺らの仕事だな」


長岡さんが立ち上がり、袖をまくった。


「……オレも……拭くくらいなら……」


宇津井さんも、少しだけ気恥ずかしそうに言ってくれる。


「えっ、いいんですか? じゃあ……お願いします!」


私は思わず笑顔になって、二人にお皿を託した。

長岡さんは慣れた手つきで洗い物をこなし、宇津井さんは静かに、でも丁寧に布巾で食器を拭いていく。

二人とも、特に多くを語るわけではないけれど——その背中からは、どこか満足げな空気がにじんでいた。

こうして、私たちの“朝ごはん会”は、静かに、でも確かに始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る