第3話
回想:あの夜、森で起きたこと
——7年前の林間学校。森の奥で6人の少女が激しい口論をしていた。
「……もういい加減にして! 消えちゃえばいいのよ!」
ユリが叫ぶと同時に、1人、2人と少女たちが川へと突き飛ばされた。
慌てて止めに入った教師・田中。だが、その背中を、ユリが——押した。
「先生も、見てただけ、助けるふりをしただけ、逃げようとした。私たちを守らなかった。だから、いらないの」
川の音がすべてを呑み込んでいった。
⸻
クライマックス:最後のペア
最後のペアは、田中先生と出席番号17番・ユリ。
田中は恐る恐る問いかけた。
「……ユリさん。あなたは、何か……後悔している?」
ユリは、笑った。ぞっとするほど静かに。
「先生……本当は知ってるんでしょ? あの夜、私たちがしたこと。先生が“しなかったこと”も」
田中の目が揺れる。
「私……あの夜、必死で助けようと——」
「違う。見てたわ。先生、逃げようとしてた。私たちを見捨てたのよ」
田中は絶句した。
そのとき——教室の扉が、静かに開いた。
⸻
真実:幻想と記憶の終焉
入ってきたのは、黒い傘を差した老人だった。沈んだ声で言った。
「田中翔……あなたは、もう7年前に亡くなっています」
教室が静止する。
「林間学校の夜、あなたは4人の生徒と共に行方不明になった。今ここにあるのは、あなたの“後悔”が生み出した幻想です。これは“死後の授業”。あなたが最後まで終わらせられなかった“償いの時間”なのです」
田中の身体が、ゆっくりと消えていく。まるで白い煙のように、黒板の前から、風の中へと溶けていく。
生徒たちの姿もまた、徐々に色を失い、幻のように淡くなっていく。
—
エピローグ:ふたり、傘の下で
夕方の校門前。雨は小降りになっていた。
傘を差しながら並ぶカナとユリ。現実か、幻想か、境界線は曖昧なまま。
「……先生、今日もあの教室にいるのかな?」
カナがぽつりと呟く。
ユリは少し微笑んだ。
「きっとね。私たちが戻るのを待ってる。ずっと“授業”を続けてるのよ。あの教室で」
ふたりは立ち止まり、そっと目を閉じた。
「ごめんなさい。あの夜のこと……忘れない。罪を背負って、私たちは生きていく。命を救う人間になる。だから——」
風が吹いた。
ふたりの背後に、もう誰もいないはずのしっとりと濡れた小さな影が寄り添ってきた。
告白の道徳授業 ― 17人の真実 ― 奈良まさや @masaya7174
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