もう一度会いたい人。

@katakurayuuki

もう一度会いたい人。

「もう一度だけ会いたい人はいますか?」

 面倒な事になった。仕事の帰り道、駅まで歩いているときにTVのインタビューに捕まってしまったのだ。

 そのTVマンは羅針盤を持っていた。その会いたい人の向く方に針を動かしたりして移動する企画なのだという。

 「もう一度会いたい人?そんなのいない。」

 俺はそう答えた。 そしてすぐさま駅に入っていった。

 もう一度会いたい人なんて言うのは昔いい事をされた人に訊けばよいのだ。残念ながら、俺にはそんな過去はなかった。

 親も周りも最悪だった。あの時の俺の羅針盤は壊れ切ってどこにも針を向けていなかった。ただ、最悪なりにクモの糸が一本だけ垂れ下がっているのを俺は見つけ出すことが出来て、掴むことが出来た。幸運なことだ。

 最悪なりに頑張れてきたことで、妻が出来、子にも恵まれた。

 そんなことを振り返りながら夕飯を食べ終え、ビールを飲んでいると、妻が。

 「何考えているの?」

 どうやらずっと考えていて会話がおろそかになったから心配になったらしい。

 俺は今日会った出来事を話して、

 もし俺が死んだら、骨は自然葬にしてくれ。墓はいらない。ただ、花を添えてほしい。

 そういうと、妻は。

 「あなたはそれでいいかもしれないけれど、私もそこに入るんですからね。それじゃあ私たちだけの墓でも作りましょうよ。それなら家族の墓を新しく作りましょ。それでいいでしょ。」

 そういうと妻はスッキリした顔でお風呂に入っていた。

 確かにそれもいいかもしれない。終の事だが、想像しても悪くなかった。

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もう一度会いたい人。 @katakurayuuki

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