幼馴染のユミと付き合い始めてからというもの、毎日は大変変わらずいつも通りだった。

 いつも通りの朝。

 いつも通りの学校生活。

 いつも通りの放課後。

 いつも通りの帰り道。

 いつも通り。

 いつも通り。

 いつも通り…………。

「付き合う前と何も変わってなくない?」

「どうした急に」

「だから、恋人っぽいことなにもしてないじゃんって」

「……ああ、まあ」

 正直、ユミと付き合っているということを忘れていた。いつから付き合っていたっけ……それすら思い出せないくらい、劇的に何も変わらなかった。

 そもそも、恋人っぽいことってなんだろう。

「…………」

 とりあえず恋人っぽくユミと手をつないでみたら、振り払われた。

「なに、どしたの?」

「恋人っぽいことしてみた」

 しばらくキョトンとした顔をして、「おお」とユミは納得したように俺の手を掴む。

 そして、再びキョトン顔。

「……何が恋人っぽいんだろ?」

「さあ……」

 しかし、懐かしいなあ。何にでも興味を持つユミが迷子にならないよう必死に手を握っていたが、結局引きずり回されて2人して迷子になっていた頃を思い出す。遠足で遭難した時は死んだと思った。

 ユミも同じように昔を思い出したのか、不満げに手を離した。

「そもそも、恋人っぽいことって何なの?」

 俺も知りたい。

 手を繋ぐ。これはもう嫌というほど、それこそ泣くほど経験した。

 キスをする。これも嫌というほど、それこそ泣くほど経験した。

 それ以上となると……いや、うーん……ユミの裸は嫌というほど、それこそ泣くほど見てきた。というか、これが一番嫌な思い出かもしれない。

 傷だらけ泥だらけのユミに風呂へ引きずり込まれ、何度おぼれのぼせたことか。

 そもそも。

「どうして恋人は恋人らしいことをするんだろう?」

 ぽつりとこぼれた疑問に、

「不安だからでしょ」

 意外なところから答えが飛んできた。

 声がした方を見れば、駄菓子屋の店長が眠たげな顔で頬杖を突いている。

「ふとした拍子に良いなと思ったり、繰り返し話すうちに惹かれたり、でも信頼関係を築くには知り合って間もなくて、だから互いに想い合ってる確信が欲しくて触れ合うんじゃあないのでしょーか」

「……なんかそれっぽい」

 ユミの言葉に頷くと、店長は大きくあくびをして立ち上がる。

「ほら、納得したなら帰れガキ共。閉店時間過ぎてもいるようなら放り出すからな」

 壁掛け時計を見れば、閉店時間である18時まであとわずか。正直店じまいには早過ぎると思うのだが、子供相手の商売だからこれでも長い方なのだろう。

「想い合ってる確信かあ」

 しかし、納得がいかないのか、ユミは店長の言葉を繰り返す。

 結局、俺達は店長に追い出される形で店を後にした。

「私達って想い合ってるよね?」

 そんなものが俺とユミの間にあるかはわからない。が、少なくとも、信頼関係があるのは間違いない。

「そうだね。うん。想い合ってる」

 幼馴染として築いた信頼関係が、果たして恋人として築かれる信頼関係と全く同じものではないと思うけれど。

 でも、

 まあ、

 結局、

「あ! そうだ! ね、ね!」

「……なに」

 どんな関係であったとしても、俺はユミのわがままに付き合うのだろう。

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隙を見せたら幼馴染と付き合うことになった めそ @me-so

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