終焉への道 (Shūen e no Michi)

@razcall0322

第一章 プロローグ

第一章 プロローグ


「何も本当に失われることはない。

ただ、語られなかった言葉の中に隠れるだけだ。」

そして今夜、それらすべてが一斉に語りかけてきた。



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普通の朝の光の下、古びたアパートの前にタクシーが静かに止まった。

ペンキの剥がれた外壁、ひび割れた壁面、そしてステップは老朽の重みで鳴いている。

その中から、若者が黙って降り立った。

無表情な顔、漆黒の瞳に、決して語られるべきではない何かが潜んでいるようだった。

彼の名は、テン・ジン――。

その日、彼はこの街の高校一年生として、新たな生活を始めた。



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物静かな管理人から部屋の鍵を受け取り、ジンは荷ほどきを始めた。

その動きは落ち着いていて、ほとんど音も立てなかった。

しばらくして、彼は近くの小さな店へ日用品を買いに出かけた。



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その夜、太陽が完全に沈む少し前。

人混みの中、なぜか見過ごされるような静かな街角で、制服姿の少女が見知らぬ男三人に声を掛けられていた。

周囲の人々はちらりと見ただけで、すぐに視線をそらした。


「一人でどうした、可愛い子ちゃん?」と、男の一人が嘲るように微笑み、不気味さを隠さない。


「ほっといてください」と、少女は小さく、しかし強く返した。


「さあさあ、ちょっとくらいいいだろう?」別の男が腕に手を伸ばす。


「放して!」少女が叫ぶ、その瞬間、


――ひとつの声が静寂を切り裂いた。


「何をしてるんだ?」


三人が振り返る。

数歩先、買い物袋を提げた少年が立っていた。

彼の視線は冷たく、鋭かった。


「お前の知ったことか。後悔したくなければ下がれ」と、一人の男が唸るように言う。


「違う、お前らこそ、後悔したくなければ下がれ」少年はゆっくり応じた。


三人は笑った。一人が前に出て、拳を振り下ろす。

しかし少年はその拳を空中で受け止め、一撃で男の顔を打ち砕いた。

男は悲鳴を上げる前に倒れ、その場で動かなくなった。

残りの二人は固まり、そして逃げ去った。


少年は顔色を失った少女に向き直った。


「大丈夫か?」


「は、はい……ありがとう」


「もう帰ったほうがいい。暗くなって危ない」


彼は去ろうとした。


「待って!ちゃんとお礼を言いたいのに!」


「またね。次に会うときにね」


その言葉に少女は固まり、

少年が通りの角へ消えていくまで、ただ見送るしかなかった。



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翌朝。

目覚まし時計の音が静寂を切り裂く。

少女はベッドから起き上がった。

昨晩の言葉が耳にまだ響いているようだった――偶然の出会い以上の何かとして。


制服に着替え、鏡の前で一瞬だけ自分を見つめ、学校へ向かって家を出た。



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別の場所では、テン・ジンが新しい高校の門前に立っていた。

校門は立派に見えたが、空気はどこか不穏で――表面の下に何かが潜んでいるように感じられた。

彼はゆっくり歩き、廊下を進んだ。


「迷子か?」と、一人の生徒が声をかけた。


「職員室を探している」


「案内しようか?」


「結構。場所だけ教えてくれ」


言われた通りに歩き、ジンは職員室に辿り着く。

案内された部屋の扉を開けると、そこには担任教師のマイ先生が待っていた。

「ここで待っていて」と、彼女は言い、教室へ入って行った。


数分後――


「では、本日新しく転入してくる生徒がいます」と、マイ先生の声が教室から響いた。


ざわめきが起こる。冗談、予想、好奇心の声。


「どうぞ入ってください」


テン・ジンが教室へ入る。

沈黙が広がる。

髪は黒く、やや乱れて、目は鋭い。

暖かな季節にもかかわらず、長袖のシャツを着ている――整っているが、どこか異質だった。


その中で一人の少女が動きを止めた。

昨夜の少女、ヘレンだった。

二人の視線が交差する。

ヘレンの頬がかすかに震えた。


「おはようございます。テン・ジンと申します。よろしくお願いします」


「空いている席にどうぞ」と、マイ先生が促す。


ジンは教壇から教室を横切り、席に向かう。

となりの生徒がすぐに振り向いた。


「やあ、アーサーだ」


「テン・ジンです」


「席が隣同士だね。仲良くしよう」


ジンは軽く頷いた。


その後、順番に自己紹介が続いた。名前、ちょっとした話題。

中には注目される生徒もいた――政財界の子息、成績優秀者。

だがジンはほとんど口を開かなかった。

彼の視線は“見る”ではなく、“記録”しているかのようだった。

誰も気づかないものさえ、彼の瞳は捉えていた。


一日は短い小テストと昼休みの食堂での時間で終わった。

アーサーと隣で食事をしながら、

ヘレンは遠くからその光景を見つめていた。

疑問が目に浮かんでいる――だが一言も発せず。


そしてテン・ジンは――

淡く、しかし意味ありげに笑った。

すべてが計画通りに進んでいるかのように。


何か大きなものが、今まさに動き始めている。



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