シューショクヒョーガ鬼(き)

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 ひひひ…知りたいの?楽に生きてこられた男たちよ、知りたいのかい?知りたいのなら…教えよう、オレの本名を!

 まさかの、牛。

 貿易会社に中途社員として入社してきたのは、真っ赤な牛。

 人間と同じように二足歩行をし、人間と同じように話す牛だった。

 「あの中途社員、角が生えてないか?」

 「牛だからな」

 「赤すぎないか?」

 「アカベコなんだろう」

 そんな牛社員の動きは、課長もあきれるくらいにゆっくり。

 「牛君?もう少し、スピードアップしてくれないか?」

 この会社では、ニックネームで呼びあう。

 提出済みの履歴書には本名が書かれているだろうが、「牛」と呼んでかまわない。

 新卒過保護世代のある男子は「過保護」などという名で、その先輩は「おにぎり」というマンガキャラクターのような名で呼ばれていた。

 先輩のニックネームは、本人がしばしばこう言っていた様子から付けられた。

 「今の子は、良いよなあ…。オレたちの世代は、おにぎり 1つしか買う金がない」

 そんな先輩は、中途でやってきた牛社員と仲良し。

 「…」

 「だよな~」

 「…」

 「その通りだよ、牛!」

 いつも、楽しそうだ。

 「オレたちは、お互い苦労をさせられてきたから、気が合うんだ」

 先輩は、言う。

 が、努力のできた世代を傷付けてきただけの過保護君には理解できず。

 「牛」というニックネームは、もちろん、動きがゆっくりしていている様子からつけられたもの。

 が、そんなやや不名誉なニックネームも、「若手VSおじさん系」の鬼ごっこ対決がおこなわれた社内レクリエーションで大逆転。

 走りはじめたら、おじさん系のチームにいる牛社員の足が急激に早くなったのだ。

 「この牛、神っ!」

 体力のない過保護君が、感動の声を上げて牛に近付く。

 「すごいぞ!牛さ~ん!」

 すると、牛が大変身!

 全身の赤みが増し、鬼のような形相を浮かべはじめた。

 「あ、鬼!」

 「くくく」

 「鬼ごっこに強いわけだ…」

 「ふふふ」

 「友だち友だち!おじさんの本名は、何?」

 その瞬間。

 赤鬼となった牛が、過保護君の頭に角を突き刺した!

 過保護君は、ゆるい血を吹き出して死亡。

 「…教えてやろう。オレの本名は、シューショクヒョーガ鬼(き)だ!」

 牛社員は、貿易会社らしく外国に異動させられることとなった。

 鬼の伝説は、世界中に残される。

 もしかしたら、この輸出が原因になっているのかもしれないね。


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