転生少女の異世界青春物語ー人生に絶望して自ら命を絶った少女は生まれ変わった異世界で青春を謳歌するー

出羽育造

第1話 わたしが死を選んだ理由

 季節は冬。ある日の深夜、その少女は高いビルの屋上に制服姿で1人佇んでいた。少女の名は栗原京子(くりはらきょうこ)。県立桜が丘高校の2年生。周囲のビルの明かりはほとんど消え、道路を行き交う車もまばらだ。当然歩いている人もいない。


(あはっ、もう何もかにもイヤになっちゃった…)


 元々引っ込み思案の性格で友人もほとんどなく、小学校中学校と教室で1人ポツンと机に座り、本を読んでいた。中学校では軽いイジメに遭ったものの、まだその頃はクラス全体でイジメを抑制する行動があったため、嫌な思いをしつつも、勉強が好きだった京子は登校拒否をするまでには至らなかった。


 状況が一変したのは高校に入ってから。中学で京子をイジメていた女子グループも同じ高校だったのが不幸の始まりだった。イジメグループのリーダー格の少女は同じクラスになった京子に対して、冷やかしや貶め、悪口を言う。クラスの女子を扇動して集団で無視する。教科書の挿絵に落書きをするなど、陰湿な嫌がらせを行った。しかし、我慢強い京子は「ボッチは慣れてる」とばかりに無視を決め込んだ。それが益々イジメを誘引してしまう原因になった。


 京子があんまり我慢するものだから、イジメグループは目立たない場所で叩いたり、蹴ったりといった肉体的に痛めつける事をしたり、物を隠したり、財布から金を抜いたりと様々な嫌がらせをしてきたのだった。さすがの京子も耐えられなくなり、クラスの中でいじめに遭ったある時、なぜこのようなことをするのか聞いた。その答えは…。


「アンタみたいな根暗で陰鬱な女、見てるだけでキモイし、ウザいからよ」


 という、割りとどうでもいいものであり、「そんなことで…」と京子を絶望させた。流石にそれを聞いたクラスの男子達はイジメグループに抗議し、止める様に言ったがグループに扇動された女子たちの反撃を受け、引き下がるしかなかった。


 実は京子は勉強ができる子だったので、勉強が苦手な運動部の男子たちに教えてあげる事が度々あり、しかも大人しくて、はにかんだ笑顔がとてもかわいい美少女であったことから男子たちに密かに人気があった。これが一層イジメ女子たちの不興を買ったのだった。


 それからもイジメは続いた。この間、京子も黙っていたわけではなく、学校に相談したり県の教育関係者であった父親に相談したりしたが、内々に事を済ませようと、真摯に対応してくれない学校は全く役に立たず、父親もキャリアに傷がつくからと無視を決め込み、母親もそれに同調する有様だった。


 それでも京子に対して好意を寄せ、折に触れて京子をフォローしてくれる男子もいた。いつしか京子もその男子の事が好きになっていったが、ある日の休憩時間、トイレを済ませてクラス戻った京子の背後からそっと近づいたリーダー女史が京子のスカートを掴んで一気にずり下げた! しかも、パンツまで一緒に下がってしまい、大事な部分も丸出しになってしまった。さらに間の悪いことに、京子が好きだった男子が目の前にいたものだから、バッチリ見られてしまったのだった。


「ギャハハハハ! ザマアないわね。どう、好きな男に股を見られた感想は。折角だから彼にその汚いオマンコ見せて、慰めてもらったらいいんじゃない? アーッハハハハ!」


「ひ、酷い…、なんでここまでするの?」


 涙声で抗議しながら、パンツとスカートを上げるため屈んだ京子の尻が蹴飛ばされ、「きゃあっ」と悲鳴を上げて床に倒された。その拍子にカワイイお尻が露わになり、クラスの女子からは笑いが、男子(京子に好意を寄せていた男子を除く)からも歓声が上がった。流石に京子もこの仕打ちにはいたたまれず、起き上がって大粒の涙を流しながらスカートを直すと教室を飛び出した。


 それから何時間経ったのだろうか。季節は真冬、制服だけの京子の体は冷え切っていたが、寒ささえ感じることが出来ないほど生きる気力も失われ、ただ街中を彷徨うだけの存在になっていた。


(死のう…。生きてても楽しくない。ただ辛いだけの毎日…。生きていれば楽しいこともあるなんて絶対にウソだ…。そんなの詭弁にすぎないよ)


 京子はふと周りを見た。気が付けば時刻は深夜。目の前には高層ビルの非常階段がある。無意識に京子は非常階段を登り始めていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「死んだらどこに行くのかな…。自殺は天国に行けないって誰が言ってたかな…。丹波哲郎さんだっけ。はは、どうでもいいや…」


 京子は空を見上げると西の夜空に月が明るく輝き、北の空にオリオン座やおおぐま座(北斗七星)の星々が煌めいている。


「あ、死兆星…」


 なんで今更世紀末アニメの事を思い出したのか。非現実的な事に思わず小さな笑いが出るが、直ぐに現実に戻った。両親と想いを寄せていた男子に別れを告げ、屋上の縁から1歩足を踏み出し、地上に向かって飛んだ。


 自由落下で加速しているハズだが京子にはすごくゆっくりに感じられた。地上の街灯の明かりが星々のように美しいと思った。目を閉じると今までの事が鮮明に思い出される。ほとんどが学校での辛いイジメを受けた内容であったが、僅かに想いを寄せた男子とのやり取りも思い出せた。


(きっと、わたしの事なんて直ぐに忘れるんだろうな。次は絶対にいい人生になりますように。神様お願いします…)


 次の人生が幸せであることを願い、目に涙が浮かんだ瞬間、激しい衝撃を感じて京子の意識は暗転した。意識を失う僅かな間、体の周囲が金色に輝いたような気がした。

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