第19話 懺悔会でヲタバレして皮むけ!?
「吾輩は秘密結社AssaXの総帥、黒羽ヨハネ、だ!」
ビシッとポーズを決めて、画面の向こうの視聴者に高らかに挨拶するあんこ。
口上は完璧だった。自分でも今日は、決まってる……と思っていた。
「ヨハネちゃん、よろしくにぇ~!」
みこののんびりした声が返ってきた瞬間、あんこは思わず反射で、
「よろしくおねがいします!」
ぴしっと真面目に言ってしまった。
それを聞いて、みこが爆笑した。
「真面目かッ!!」
「は……! ち、違うし! 真面目じゃないし! この世界を支配するし!!」
慌ててキャラを取り戻そうとするあんこだが、すでに視聴者は大盛り上がりだ。
《真面目すぎ総帥で草》
《その律儀さ、まるで事務職の女》
《支配する前に会釈してそう》
そして――始まった懺悔会。
「それでは……懺悔することは?」
みこが静かに問いかけた。
一瞬、言葉に詰まったが、あんこは口を開いた。
「秘密結社の総帥なのに、真面目なことを懺悔します……」
《知ってた》
《草しか生えん》
コメントは大爆笑の渦だった。
それに乗せられるように、あんこはポツポツと語り始めた。
配信中に緊張してしまうこと。
面白いことを言おうとして、逆に空回りしてしまうこと。
園田があまりにも自然に伸びていくのを見て、自分はまだ“壁”を破れていないと思ったこと。
「それでも……頑張りたいんですよ。ヨハネとして、みんなに……何か、残したいっていうか」
しんとした空気のなか、みこが唸るように言った。
「うーん……これは、みこじゃ解決できないかもにぇ~」
「えぇぇぇぇ!!?」
思わず、あんこが立ち上がりそうになった。
コメント欄も爆発。
《おいwwww》
《解決しろよwww》
《これがみこ式の洗礼》
しかし、みこはにっこり笑って言った。
「でもね、一番親しくて、心を許せる先輩を、連れてきてあげたにぇ~」
「えっ……?」
聞いてない、そんなの聞いてない!
慌てて振り返ると、そこには――
「……よ、夜街……!?」
立っていたのは、夜街れいせいだった。
言葉が、出なかった。
画面の向こうで、みこが悪戯っぽく笑いながら言った。
「ねぇ、ヨハネちゃんが一番好きで、あこがれのVTuberだったんでしょ? 夜街が」
あんこは、こくりと頷いて小さく答えた。
「……はい……」
「じゃあ、どこが好きなの?」
不意打ちのようなその問いに、あんこは反射的に――
気づけば、早口で語っていた。
「スラッとしたスタイルが神で……
あと、めちゃくちゃクールに歌い上げるくせに、日常配信だとゆるゆるで……
あのギャップがまじでやばくて……
あ、あと料理配信のときに電子レンジの音にびびって悲鳴上げてたの最高でした……!」
画面の向こう、コメントは再び火山のように盛り上がっていた。
《語りすぎィ!》
《完全にオタクムーブ入ってて草》
《推し語りになると饒舌になるのすき》
《夜街さん顔ほころんでるぞw》
あんこは気づかなかったが、画面の中の夜街は、優しく笑っていた。
――次に言うべき言葉を、探して。
「そんな好きだったんだ……」
ぽつりと、夜街が照れくさそうに言った。
画面の向こうで、ファンたちのコメントがどよめいた。
《え!?照れてる!?》
《夜街さんが素で照れてるの珍しい》
《これは……尊い……》
そんな雰囲気の中、あんこ――ヨハネは、ぽつりと呟いた。
「……それなのに……男性アイドルと……」
一瞬、配信の空気が止まった。
「ちょっ、それは――」
みこが慌てて制止に入ろうとした。
「ヨハネちゃん、それは裏で――」
夜街も顔を強ばらせたが、もう止まらない。
「男に媚びないところが好きだったのに……!
なんで男と、裏で連絡先交換して、ゲームやっとんじゃ!」
「そ、それは……こっちにも色々あるのよ!」
夜街の声が少しだけ強くなった。
「いろいろってなに!?こっちはずっと、ずっと憧れて……夜街は孤高の狼だって信じてたのに……!」
「誰が狼よ!?それこそ勝手な理想を押しつけてきて……あんた何様なのよ!」
言い合いはどんどんヒートアップしていった。
「吾輩は総帥だぞ!!」
「総帥でもファンでも、関係ないでしょっ!」
みこが両手をわたわたと振った。
「ちょ、待って、二人とも~!配信中だよ!?落ち着いてぇ~!!」
しかし、コメント欄は逆に燃え上がっていた。
《やれ!もっと言え!》
《バチバチ最高!》
《総帥vs夜街ww》
《いけ、ヨハネ!貫け、推しへの愛!》
火に油を注いだのは、まぎれもなく視聴者だった。
だが、そこにはどこか、嘘のない言葉のぶつかり合いがあった。
本気でぶつかり合うヨハネと夜街の姿に、視聴者は目を離せなくなっていた。
数分後。
やっと落ち着きを取り戻し、ヨハネは配信の最後にぎこちなく言った。
「……ま、でも。あたしが抜かして、性根、叩き直すから」
「……一生、越えさせないから」
そんな恐ろしい宣戦布告を最後に、配信は終了した。
その直後。
あんこはスタッフルームに呼び出され、猛烈に怒られた。
「あなたねぇ!!あの場で、なんてことを……!」
「だって……言いたかったんだもん……」
しかし――皮肉なことに。
翌日。
SNSでは、"#ヨハネ懺悔会"がトレンド入りしていた。
「推しに本気でブチギレる総帥」「毒舌Vヲタク爆誕」「宣戦布告」など、切り抜きがバズに次ぐバズ。
結果――
ヨハネは、“毒舌系Vヲタク”として、新たなファン層を得ていた。
総帥というキャラクターに、熱量のある“中の人”の素が垣間見えた。
ただのロールプレイではない、信念と感情の“本気”が、視聴者の心をつかんだのだった。
夜街のファンの一部からは批判もあったが、それすら含めて、ヨハネという存在は確実に、VTuberとして進化していった。
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