夜食を、君と。

立樹

第1話

誠也せいやさん、醬油どこでしたっけ?」


 藍生あいきが、冷蔵庫をのぞき込んだまま聞いてきた。


「ああ、悪い。もう、こっちに持ってきた」


 テーブルに並べた皿に、料理を盛りつける手を止めて言う。


「じゃあ、他に持っていくのない?」


「だったら、箸と、グラス。それと、好きな飲み物、持ってきてくれ」


「うす」


 返事をした藍生は、グラスや箸などをキッチン棚から持ってきて、テーブルに並べていった。


 今日のメニューは、トマトと蒸し鶏のサラダに、レタススープ。きゅうりのたたき、それにタコの酢の物と冷ややっこ。

 もう夜の九時を回っていることから、油が少なく、さっぱりとした料理にした。腹にたまらないぶん、少し多めに作っている。


「もう、食べてもいい?」


 席に座った藍生が、待ちきれないとばかりに言った。


「じゃあ、いただこうか」


「やりい、マジで腹へって、吐き気してたんだよね」


「え、そんなに。早く食え」


「いただきまーす」


 藍生は、手を合わすもの手間だとばかりに、すぐに箸を取って、がっつくように食べ始めた。


「やっぱ、誠也さんの料理うまっ!」


 本当にお腹が減っていたのだろう、みるまに皿の上の料理が減っていく。

 俺は、藍生の食べっぷりをあきれつつ、口元がにやけてしまう。

 エプロンを外しながら、こほんと、表情をもとにもどした。

 席につき、「いただきます」と、箸を手にとった。


 作っている間は、さほどお腹が空いたという感覚がなかったが、一口食べると、箸がとまらなくなった。


 やっぱ腹減ってたんだな。


 それにしてもと、一心に食べている藍生に目をやる。


 目が半分かくれるほどの前髪を、左右にわけてピンで止めている。

 手入れされた優美な眉と、くっきりとした二重の目。長いまつ毛がよく見える。

 鼻先はつんととがり気味で、女性のようなふっくらとしたくちびる。


 いつ見ても、きれいな顔だ。


「ん、あ、オレ、食べすぎ?」


 視線に気づいた藍生が、慌てるように言った。

 しまった、じっと魅入ってしまっていた。


 いけない、いけない。


「まだまだあるよ。全部食べても、また作るから。大丈夫」


「すげー。さすが誠也さん。オムライスも感激だったけど、ほんと、美味しくて、毎日でも食べにきたくなります。なんて、そんなこと言われても困りますよね」

「困らないよ。いいから食べて」


「じゃあ、遠慮なく」


 そう言うと、藍生は止めた箸を動かし始めた。

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