学園の獣

taktak

夜のしじまに

 夜の校舎に、コツコツと歩く音が響く。

 誰もいない校舎。おそらく先生もいない。静まり返った校舎は、深い闇を宿していた。

 

 その廊下を少女は臆する事なく歩いて行く。手に持ったスマホの灯りを頼りに、歩き慣れた廊下を急足で屋上に向かう。

 

 昔は屋上は鍵がかかっていた。でも、いつ頃から少し工夫すれば、誰でも扉を開けれるようになった。

 先生達は知っているのだろうか?もしかしたら、先生達も秘密を隠す為に、こっそり屋上に上がっているのかもしれない。

 

 今宵の屋上は、私達の秘密のために使われる。

 禁止されている場所での撮影は、スリルと禁忌を演出し、私達の魅力が一層引き立つ。先に待っているであろう彼女はそう言って、少女を誘った。

 

 屋上の扉のノブに手をかけると、開錠の手順を踏むまでもなく、扉は開いていた。手際のいい事だ。

 

 扉を開けて月明かりが照らし出す屋上に出ると、待っていた人影に微笑みかける。


 相手もにっこりと笑い、慣れた手つきで、機材のスイッチを入れていく。

 そして、二人は抱き合うと、おもむろに撮影を始める。

 

 クスクスと笑いながら、色々な角度で撮影する。

 情熱的に、扇情的に、刺激的に。

 視聴者を意識しつつ、自分たちの魅力を誇示するように、撮影は続く。

 悪くない。

 心が高揚し、レンズの先にある不特定多数への熱烈な願望が、少女の肢体を揺り動かす。

 もっと見て。私を見て。

 照明に照らされた彼女達の影が、動きに合わせて踊る。


 だがその影は、本当に彼女達のものであろうか。

 ゆらゆらと蠢めく影の一部が、少女達と関係のない動きをしているのに、彼女達は気づいていない。

 それらは次第に数を増やし、やがて少女の足元は無数の蠢めく影で覆われた。時は満ちた。

 

 不意に、少女は突き放された。

 

 誘ってきた相手からの突然の拒絶に、戸惑いと苛立ちを覚えた少女は、口汚く相手を罵る。

 その途端、少女の腕に、闇のかいなが巻きつく。

 

 気味の悪い感触に、短い悲鳴をあげて振り払おうとする少女。

 しかし、次の刹那、少女は恐ろしい力で引きずられ、恐怖に駆られた少女は絹を裂くような声をあげる。

 だがそれを嘲笑うかのように、闇は次々と少女の四肢を絡めとり、万力のように締め付けてくる。

 少女は必死に踠き、助けを求めて屋上に佇む相手に助けを求める。

 

 だが、相手はうっとりとした顔でスマホを片手に構えると、怯える少女を撮影し続ける。

 その口元には薄らと笑みが浮かび、上気した顔で少女の姿を眺めていた。

 少女は信じられない思いで必死の抵抗を試みる。

 

 しかし、闇の腕は少女の抵抗をものともせず、互いに絡み合うようにして少女の体を飲み込んでいく。

 もはや体のほとんどが蠢めく闇に飲み込まれ、顔の一部だけがかろうじて見える。

 涙でぐしゃぐしゃになったその顔には、絶望と恐怖が浮かび、叫び続けた喉からは、掠れた悲鳴だけが溢れていた。


 相手はその様子を見ると、心から嬉しそうに高らかに笑い、少女にバイバイ、と手を振る。

 少女は断末魔をあげて、闇に飲み込まれた。

 

 煌々と照る月が、彼らの奇行を眺めていた。

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