第25話 内外特別防諜報庁:赤羽技官の記録その2
※用語の意味や世界観の補足は、「第25話 補足:主な用語」をご覧ください。
元内閣電脳情報庁で内外特別防諜報庁所属となった私は裏切り者で怪しい者だ。当然監視対象だろう、私は気が付かないがどこで見られていてもおかしくはない。
内外特別防諜報庁。国家の内部と外部、つまり超常国家との外交を監視する機関だ。同様の諜報機関に内閣情報分析庁がある。あちらは内閣官房、こちらは総理府と上位組織が異なる。実質ライバル関係にあると言っても過言ではないだろう。内閣電脳情報庁も同様の立場だったが今は一歩遅れている。解体の噂も出ているようだ。彼らのフロアの明かりは徐々に消えつつある。恐ろしい話だ。
私は内外特別防諜報庁という組織をよくわかっていない。知っているのは、内外特別防諜報委員会という上部組織があるという事実だけだ。一体どうなっているのだろうか。というか、私はなぜスカウトされたのだろうか。
「君は電算機を扱えるそうだな。ぜひ防諜報活動に役立ててくれ」
上司らしき人からはこう言われている。やはり電算機が使える人材が欲しかったのだろうか。
文化改革党の国会議員である清水議員の調査報告書を電算機に入力しなければならなかった。文化改革党は、保守系改革派や改革系保守派と呼ばれ、最大野党の地位を堅持し続けているが、党内の派閥争いが激しく、与党寄り、第二野党寄りなど基本分裂していることで有名だ。その清水議員と二大輪教団と呼ばれる宗教団体とは繋がりがあるそうだ。二大輪教団、色々と有名な団体だ。設立は第二次世界大戦後だそうだ。元々は帝国政府傘下の研究所の巫術研究部門から独立した宗教団体だ。実質的には政府系宗教団体に当たるのだが、どうなのだろう。公調監視庁の監視対象には指定されていない。危険な宗教団体ではないはずなのだ。だが、政教分離の制度上、国会議員との繋がりはよろしくないのだろう。そもそも政権与党でもない政党の議員についての報道は少ない。内閣情報分析庁も野党議員に構ってる暇はないのだろう。そして本庁でも大した事案として扱われていない。だから私に任されたのだろう。
【清水議員の動向】
——清水議員、二大輪教団関係者と接触
——教団に対する助成金の話が出ている
——清水議員の母親が二大輪教団関係者
【二大輪教団人物録】
——清水議員に接触したのは二名
——教団内では浮いた存在として扱われている
——手柄欲しさに議員に接触したと思われる
【内閣情報分析庁の対応】
——目立った動きなし
——野党議員に対する行動としては正常
——二大輪教団に対しても正常
【対応方針】
——二大輪教団は関係者を破門にすると声明
——清水議員に対する処分は政党が下す予定
——なお、本事案に対する情報漏洩は確認されず
これは一体なんの記録なのだろう。意味はあるのだろうか。電子化しておく意義とはなんだ。私の評価に影響でもしているのだろうか。これは私に対する警告か? 生かすも殺すも庁次第だと言っているつもりなのだろうか。清水議員と私の立場は似ている。裏切りは最後に処罰されるのだろう。これを打ち込んでも何も変わらない。日常も政局も、私の両親の安全だけが今を生きる意味だ。
個人用電算機は静かに唸りをあげている。紙を捲る音と電算機に打ち込む音だけが響く部屋。私以外にはこの部屋にはいない。この庁内では、基本的に誰も信用できない。嫌に絡んでくる馴れ馴れしい黄本技官は本当に嫌だ。あの人は所属を間違えているのではないだろうか。私は内閣電脳情報庁時代にも友人はいなかった。そういう交友関係すら把握されていたのだろう。私の裏切りは手のひらの上で行われたのだろう。静かなる侵略は大きく広がる。恐ろしいものだ。
清水議員は政党により処分が下される。では、私は? 誰に? どんな処分を下されるのだろう。組織か、上司か、それとも誰とも知らない誰か別の人物か。そう考えるだけで、電算機に入力する指先が冷たく感じた。
まだ、入力する報告書が積まれている。それは白くとても冷たい氷のように見えた。気のせいだろうが視線を感じた。紙を捲る音すら足音に聞こえる。切れかけの蛍光灯がチラつく庁舎内はより肌寒く感じた。ああ、裏切り者はつらいな。
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