第21話 内外特別防諜報庁:緑川技官の記録
※用語の意味や世界観の補足は、「第21話 補足:主な用語」をご覧ください。
内外特別防諜報庁。簡単に言おう。我々は嘘つきだ。嘘を愛し、嘘に愛されなければならない。それが防諜報組織の職員たる素質だろう。なぜ防諜と諜報が一括りにされているのか、誰も気にしないのだ。それは内外特別防諜報庁の特殊な構造にある。上位機関に内外特別防諜報委員会が存在するからだ。正直何をしているのか、よくわからないが、第三次世界大戦以前の国家公安委員会的な感じだろう。
我々は外交の仕事も行う。外交官に付き添い、超常国家とのやりとりも監視するのだ。その過程に問題がないか、監視はとても重要だ。当然、防諜という意味だ。残念ながら、外交官そのものにも諜報活動は行う。彼らがスパイに変わる可能性もあるのだ。それを忘れてはいけない。どんなに友情があろうともだ。また、国外政策局も同じだ。彼ら交渉官も我々の監視対象になり得る。結局活動範囲は内外特別防諜報というように、国内、国外問わないのだ。役割が曖昧になることも多々あるが、まあ、問題はないだろう。彼らと接するたび、自分も嘘の鎧を着ている気がする。だが、その鎧がないと生き残れない世界なのだ。
内閣電脳情報庁という組織がある。正確にはあったことになるという表現の方が正しいだろう。もうすぐ無くなるのだから。どうやら予定調和らしい。そこから有能な人材の引き抜きも行ったそうだ。予定調和で消えていく組織からの引き抜きは、まるで沈みかけた船からの救出劇のようだ。だが救われた者は、結局また別の海へ放り込まれるだけだ。消えゆく職員ほど諜報に向く者はいないのだから。
庁内に友人はいない。元々内向的な性格なのもあるが、基本的に信用できないのだ。明日には自分の情報が売られているなんてことがあるかもしれないのだ。とてもじゃないが、信頼できない。まあ、友人を持つ職員もいるのは確かだが。
上司ほど嫌な人間はいない。人間は、だ。魔法使いや超常国家は基本人間扱いではない。実際人でない者も多いからな。とりあえず、人間の中では上司以上嫌いな人間はいないのだ。
「緑川君、ちょっと外交について行ってくれないかな?」
突然こう言われても準備すらできていない。これは初めて外交について行く任務を言い渡されたときのことだった。酷すぎて抗議したくもなったが、そんな窓口は存在しない。
我々は公僕だ。意外だろうが、一応、職務には誇りを持っている。やりがいもある。内閣情報分析庁などのライバルとやり合うのはとても楽しい。ただ、同僚で同じく外交担当の黄本技官はそんなに好きじゃない。なんか笑みが胡散臭いのだ。
「やあ、緑川君。おひさ、元気だった?」
この馴れ馴れしいのはとてもうざったい。
ちなみに、一番苦手なのは文化芸術省 大臣官房 隠文課の篠宮文官だ。彼女のペースは苦手だ。こちらの隠し事まで見抜いている気がする。別に鋭いわけじゃない。なんか、そんな気がするだけだ。彼女は課内で外交担当を任されているらしい。そのおかげかよく出会う。
「緑川技官は文化・芸術に興味はお有りですか?」
そう言って時々パンフレットを手渡してもくる。意味があるのだろうか? おかげで暇な日には博物館や美術館巡りをするのが日課になってしまった。いまだに芸術の良さはわからないままだが……。
治部省 大臣官房 特秘外交資料室の白川外交官とは、マガラミア国との外交交渉で多く接することとなった。まあ、前任者が辞めたのも大きいが、個人的には好感を抱いている。ただ、白川外交官は監視対象者である。それを忘れるべからず。肝に銘じておく必要がある。忘れるな、我々は公僕で防諜報組織なのだ。
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