第13話 大幻洋庁:朝日観測官の記録
※用語の意味や世界観の補足は、「第13話 補足:主な用語」をご覧ください。
株式会社NIPEX。日本の石油、天然ガスの採掘・生産を行っている企業。最近では大幻洋にて神秘的エネルギーの海上プラントを運営していた。不安定な海域に浮かぶ人工島は、ある意味で空間のオアシスとなっていた。
朝日観測官は大幻洋の観測と同時に、海上プラントへの視察チームの案内を任されていた。経済省、商務経営省、環境整備省、超事調整委員会、そして特殊法人の代表者たちを乗せた六ツ境重工業と三梯敷菱重工業の共同開発した大型の船舶は、不安定な次元・空間を突き進む。六ツ境は空間の安定維持を担当し、三梯敷菱は移動技術に特化。それぞれの専門分野が見事に補完し合っていた。
「やはり、エネルギーの不安定さは問題ですね。そもそも、このエネルギーをどうやって本州へ運ぶのか。それすらも決まっていない。なぜ許可が出たのか不思議でなりませんね」
環境整備省超神秘対策局の荒木技官は腕を組み、不服そうな表情を浮かべ、NIPEXの代表に向かって言い放った。
「ご心配には及びません。暁神が協力してくれると約束しております」
「あの暁神が? それは聞いていませんでした。私たちも通さずに何を決めているのですか」
商務経営省大臣官房経営産業調査室の対馬調査官は眉間に皺をよせ、中央の計画図面の乗ったテーブルを叩く。超事調整委員会の技官は隅で様子を伺っていた。経済省特例経済調整局、波原技官は大幻洋の観測機器を確かめるように触っていた。JASMOの研究官は大幻洋に記録機器を向けながらも、視線は会話をしている代表たちに向いていた。
朝日観測官は船の先にNIPEXの海洋プラントを視認した。ゆらめく空間にポツンと浮かぶそれは、虚空の城を連想させる。本当にあそこへ行くのだろうか。観測官にとって、同行するのは断りたい事案だった。そもそも、船舶に乗るのさえくじ引きで決めたのだった。船に乗る全員は遺書を書いてきているだろうことだけは分かる。この不安定空間に行くことは自殺行為と変わらないと。その中のエネルギープラントなど、誰が行きたいものか。
「皆、お忘れか。我が経済省がどう答えるかで、今後の計画が左右されるかを」
波原技官は観測機器から手を離し、振り返った。一度、超事調整委員会の技官の方を向くも、気にせず話を続けた。
「国土計画を所管する我が経済省は、現状このままの立場をとる」
NIPEX代表は胸に手を置き息を吐く。荒木技官と対馬調査官は目を見合わせ、視線による対話で両者の立場を確認し合う。
「しかし、暁神の参加はいただけない事案です。彼らの勢力拡大はどの省庁にとっても喜ばしくないはず」
朝日観測官はNIPEXの海洋プラントの位置に疑問を持つ。あれの周囲に島は無かったはずだが、今、目の前には島が見えた。
「そもそも、大幻洋にプラントを作ることさえ、私たちは疑問を抱いている。大幻洋庁朝日観測官もそう思うでしょう」
対馬調査官は朝日観測官に視線を向けた。朝日観測官は、助けてを求めるように各代表たちに視線を送るも、助け船は出ないようだった。朝日観測官は胸の前で右手を握った。
「ただ一つ言えることがあるとすれば、大幻洋はまだ未解明なことが多いということです。例えばあの島……前回来たときには無かったと記録されています」
その言葉に、誰も反論はしなかった。むしろ、全員がその視線の先、大幻洋に浮かぶ「島」の方を見つめていた。
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