第8話 宇宙探査庁:五木技官の記録
※用語の意味や世界観の補足は、「第8話 補足:主な用語」をご覧ください。
「宇宙探査庁。広大な宇宙を可能な限り探る調査機関。この広大さを眺めると人類のちっぽけさにショックを覚える。五木技官は宇宙のチャート図を眺めながら、廃人となった同僚を思い出す。誰よりも宇宙を愛し、熱意のあった奴だった。
「宇宙観測はロマンなのさ、五木」
そう語っていた。誰よりも宇宙の神秘を解き明かそうと努力していた。奴は、ちょくちょく、オカルトと宇宙の関連性を説いていた。
「オカルトが現実となった今、宇宙に眠る神秘を起き明かすのは我々だ」
奴の目には一体何が見えていたのだろうか。病室を訪れても答えてはくれなかった。不気味なほど静まりかえった病室には、同僚が生きているのを確証させるための機械音のみが響いていた。
「外宇宙の存在を証明してみせる。どうだ、興味あるだろう」
そう手を伸ばした同僚。何に手を伸ばしたのだろうか。
五木技官は目の前の電算機を叩いた。日本の宇宙観測衛星から送られて来る情報は、毎日更新されていた。
地球には今現在も不明な神秘的エネルギーが宇宙より降り注いでいた。それらを解析するのも宇宙探査庁の役目だった。
「このエネルギーは何処から来るのだろうか」
同僚はエネルギー源を探していた。見つけたのだろうか。
五木技官は無数の機械群を眺めた。薄暗い室内に点滅する光が、まるで星空のように見えた。
「宇宙のモデル作成を試みてみる」
そう言った同僚のデータは記録媒体の中に眠っていた。誰か覗いただろうか?
五木技官は外宇宙のモデルデータを眺めた。妄想めいた記録群は、上司には一蹴されたものだ。
「宇宙には神性存在が存在するのだろうか」
日本神話群には基本的に宇宙の神は存在しない。太陽と月以外なら天津甕星くらいだろう。同僚はよく、日本古来の天体観測を行っていた結社の話をしていた。ミカ星見所という結社は、実在すら怪しかった。彼らとの接触を望んだ同僚は、休みの日になる度に外出して探し回っていた。彼らとは出会えたのだろうか?
五木技官は、天体観測機器を覗き、宇宙を眺めた。光輝く過去の星明かりは、いつまで輝き続けるのだろうか。同僚の輝きは薄れていったのに……。
「宇宙には我々以外の生命体が存在するのか。彼らと交信できるのか。考えるだけでも、ワクワクするじゃないか」
なぜそこまで宇宙にこだわるのか同僚に尋ねたときの答えである。今まさに同僚は交信しているのだろうか。病室を訪れてもその答えは返ってこなかった。
ミカ星見所。日本の古来結社の話の中に含まれる不明な存在だ。彼らは何を研究し、何をなそうとしたのか。誰も分からない。
五木技官は星空の下にいた。見上げる空には輝く星々が五木技官を見下ろしていた。気がついてはならない。我々が見ているとき、彼らも見ているのだと。観測者は観察対象者である。五木技官は両の腕を広げ天を見上げた。暗い空が、宇宙が五木技官を見下ろしていた。そう、いつまでも」
電算機は記録する。宇宙探査のこれまでとこれからを。唸り声を上げて
宇宙は、新たなる観測者の足音を捉えていた。宇宙探査庁は新たなる人材を求めていた。
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