―風と光と歌の詩集―
ルビー・ミッドナイト
第1話 無形の手紙たち
一、風が運ぶもの
風はなにを運ぶのか
昨日の思い出か
明日の悲しみか
誰かの笑いがほどけて
午後の光にまぎれこむ
歩道の落ち葉がひとつ
ふと 宙に浮かぶとき
それは手紙かもしれない
まだ書かれぬ言葉たちが
風のなかで かすかに
宛先を探している
ふりむく者はおらず
追いつけぬまま夜がくる
風はただ なにも言わず
ポケットの中をすり抜ける
昨日の面影か
明日の静けさか
それとも
今日という名前の
見えない誰かのための祈りだろうか
---
## 二、光が運ぶもの
光は何を運ぶのだろうか
ただの粒子か それとも夢か
朝のまどろみに差し込んだ
あの柔らかな予感は 何だったのか
壁に揺れるカーテンの影
誰かのまばたき 誰かのまなざし
何もないはずの空間に
確かに触れた ぬくもりの記憶
光は たぶん
時を逆さに流れる舟だ
まだ来ぬ未来の景色を
そっと 窓辺に映し出す
君が黙って笑った日
そのほほえみの輪郭が
今も午後の光に浮かんでいる
言葉よりも先に 優しかったもの
光は何を運ぶのだろうか
目には見えない涙か
まだ誰にも触れられていない
希望の原石か
風が 過去を撫で
光が 未来を照らすとき
私たちはきっと
その間に 立っている
---
## 三、歌が運ぶもの
歌は何を運ぶのだろうか
過ぎた恋か 名もなき祈りか
声になった想いが
夜の隙間を ゆっくりと満たしてゆく
誰かが泣いた部屋にも
誰もいないホームにも
歌は迷わず届く
ことばを越えて 触れるものとして
それは生きてきた証か
それとも まだ生まれていない
物語の 胎動か
歌は ときに風となり
ときに光となり
名前のない心に
そっと 名を与えてくれる
ひとりきりの静寂が
その旋律に揺れたとき
孤独は やさしく
溶けはじめる
歌は何を運ぶのだろうか
昨日を赦す力か
明日を信じる種火か
それとも
いま この瞬間を
永遠に変える 小さな奇跡か
―風と光と歌の詩集― ルビー・ミッドナイト @rubymidnight
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