強制お見合いの相手が片想いの女の子だったんで最高なんですけど
すずと
第1話 突然ですが、お見合いです
「はぁ? お見合いぃ?」
久しぶりにじいちゃんから電話がかかってきたかと思ったら、開口一番でそんなことを言ってきやがる。
『ああ。
「待て、待て。話が飛躍しすぎだっての」
『それじゃあ、俺は準備があるから、またな』
「あ、ちょ、じいちゃん!?」
一方的に電話を切られてしまった。
「──ったく、こっちの都合も考えろっての」
怒りの言葉を呟きながら、スマホを制服のポケットに滑らした。
「お見合いだなんて古臭い風習、まだやってんのかよ。つうか俺、まだ16歳だし。高校二年だし」
そもそも、俺には片想いをしている女の子がいるんだ。それなのにどこの馬の骨かもわからない女性とお見合いだなんてしたくもない。
ぶつぶつと垂れる俺の文句は、放課後の廊下へと消えていく。
担任の先生との二者面談が終わり、自分のクラスである二年一組の教室に置いて来た鞄を回収しようと教室のドアを開けた。
「──ぅくん!! 大好きです!!」
唐突な告白のセリフがこちらにぶっ飛んでくる。
誰に向けての愛の告白なのかはわからないが、その言葉を言い放ったのは俺の片想いの相手である、
肩にかかるくらいの黒髪のミディアムヘアは、真っすぐで艶やか。透き通るかのような白い肌。長いまつ毛に伏し目がちな瞳が揺れたかと思うと、徐々に身体全体が揺れ始め、透き通るかのような白い肌が一瞬で赤くなる。
「
ここでようやくと彼女が俺の名前を呼び、頭から湯気を出して慌てふためく。
「い、いい、いみゃのは……!! 今のは、えっと、あ、あれが、あれで、それで……決してえっちなことを言ったわけではなくてですね、いや、そういうこともしたくないわけではなくて、むしろしたいというか──」
片想いをしてから、こんなにも早口になる広員を初めて見た。いつもはお淑やかで神秘的な空気を纏っているのだが、今、この時だけはその全てのバフオーラが消え失せていた。
「緋色くんのえっち!!」
彼女の脳内裁判でなにがあったのか、判決は俺がえっちだという結論に至ったみたいだ。
「えっと、広員……?」
ダッ──。
どうやら反論の余地を俺に与えてくれないみたい。
広員は書いて文字の如く、脱兎のように逃げ出した。
「はえー……」
経験値をいっぱいくれるメタル系並の速さだったな。追いかけて捕まえたら俺の経験値が上がるのかしら。
それにしても、あれはどう考えても告白の練習だったよな……。
はぁ……広員、好きな奴がいるのか……。
♢
告白の練習をするくらいに、広員には好きな人がいる。その好きな奴、許せないな。とか文句を垂れている場合じゃない。
広員に振り向いてもらうためにも、お見合いだなんてしている余裕はない。今は一分、一秒でも広員に振り向いてもらうための自分磨きがしたんだ。それなのにじいちゃんめぇ……。
「はぁ……」
大きなため息が零れてしまう。
「まぁ陽。気楽にいけや」
心の中では強いことが言えても、じいちゃんのことを無視はできない。
無視すれば恰幅な黒服達に取り抑えられるのがオチだ。じいちゃんは昔からそういう人だった。
「でも、なんで急にお見合いなんて言い出したんだよ」
「跡取りの件もあるしな」
「跡取りって、親父がいるじゃん」
「あのポンコツか?」
じいちゃんは呆れたように鼻を鳴らした。確かに親父はポンコツだ。身内として恥ずかしいくらいにポンコツ。もう、これ以上ないくらいにポンコツ。
「だから孫のお前に期待してるんだ。まぁ、俺ほどじゃないがな」
そんな会話の端々から、じいちゃんがただの頑固じじいじゃないことは察せられる。でも俺は至って平凡な暮らしをしてきた。石を投げれば当たるような平凡な男。凄腕の祖父とポンコツの父親の丁度中間。ザ・普通ってやつだと思う。
そんな平凡な男子高校生に縁談なんて持ち込んでくるなよ。しかも、場所は超高級料亭だし。周りはかしこまった格好の大人達。こちとら高校の制服だぞ。料亭のマナーとかも知らんし。箸で牛丼をかきこむことしかできんぞ、俺は。
「別にこのお見合いも断って良いんだ」
「そんな軽い感じなら、お見合いなんて設定すんなよ」
「練習だ、練習。お前にはこれから先、もっと縁談の話が舞い込んでくるんだからな」
「舞い込まなくて良いっての、ったく」
「今回は向こうさんも練習を込めてのお見合いだしな」
「なんだよ、練習って……」
お見合いの練習とか納得いかない。本気じゃない恋なんて嫌だ。
そんな思いが顔に出たのか、じいちゃんに心を読まれてしまう。
「なんだ? 好きな女でもいるのか? 紹介しろ。見極めてやる」
「嫌だわ。絶対するか」
「だろ? お見合いで女を引っかけた方が楽だろ。俺に任せておけ」
このじじぃ。自分の都合が良いように話を持っていきやがる。大手企業の創業者になる人物だから、これくらいの強引さはないといけないっことか。俺には到底できんな。
「お、来たか」
俺達がいる料亭の席の障子が開かれる。そこにはいかにも厳格そうな顔をした老人と──。
「ヒロ、イン?」
「え……ヒーロ、くん!?」
俺の片想いの女の子が立っていた。
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