第48話 好き

 伝えるとは言ったが、なにをどう伝えるのかを考えていなかった。

 今から言葉を考えていっても遅いし、思いついたのをすぐに言っていくしかないのだろう。

 俺は口を開いた。


「風花――」

「……なに?」

「俺さ、夏休み前のあの日、風花の気持ちを知っちゃったときは、まったく信じられなかった」

「…………」

「風花みたいな可愛くて人気のある人が、俺を好いてくれてるなんて、嘘なんじゃないかとも思った」

「嘘じゃないよ」

「もちろん、それはすぐに分かった。俺が教室に入っていっちゃったときの反応が、正しくそうだったのもあるけど――。あの日から風花と関わるようになって、風花と話すようになってからは、風花の気持ちがすごく伝わってきたし、しっかり向き合おうと思った」

「うん」

「最初のころは……まぁ、風花のことを好きだったとは言えなかった――」

「そう、だよね。仕方ないよ、急なことだったし」

「でも、風花と仲良くしていくと、だんだんと風花の良いところがたくさん見つかってきて、だんだん風花の魅力が分かって、なんて言ったらいいだろう……夢中に? 虜に? なっていったんだ」

「そっかー、むっちゃ嬉しいな」

「笑顔も、怒ったような顔も、俺のために向けてくれて……」

「…………」

「俺は……俺は――」

「――私も、晴路と話すようになってから、晴路の印象、かなり変わったよ」

「あ……うん」

「一年ちょっと前、初めて見たときは、ただ優しい人だなって思って、それだけで好きになった節もあるんだけど」

「…………」

「教室でチラッと見るようになってからは、いろんな姿を見れて、表情というか、顔というか、それも好きになっていった」

「あぁ」

「それが、晴路と直接になっていったら……、あれ以前では考えられないほど晴路と過ごせて、もっと、もっと、晴路のことを、良いところも悪いところも含めて好きになった」

「…………」

「あ、悪いところって、そういう意味じゃなくて――。言葉の綾っていうか……」

「いや、分かってる。大丈夫」

「とりあえず、何回も言ってるけど、わたしは晴路のことが――」

「――待ってっ」

「ぇ?」

「俺から言わせて欲しい……。ずっと風花が言ってくれていたから、今度は俺が言いたい。それに、風花と約束したし――」

「そんなことも言ってたかも……いいよ」

「うん、それじゃあ…………。俺は……、風花のことが、好き」

「……ありがと。わたしもだよ、大好き」

「「…………」」

「良かったっ――。もしかしたらを考えちゃったら……、良かった」

「当たり前でしょ。わたしは何度も言ってるじゃん、晴路が好きだって」

「それはそうだけど……。っん――?」


 風花は俺を抱きしめてきた。

 風花の顔が俺の肩にぶつかる。


「晴路も、ほら」

「あぁ」


 背中を軽く叩かれて俺も抱きしめ返すように催促され、俺も風花の身体に手を回す。

 腕も脚も、身体全体で風花を感じる。

 優しくて温かくて、少しも緩めたくない離したくない。


「晴路――」


 そう名前を呼んで、風花は上半身だけ少し離して、俺と顔を見合わせる。

 風花の手が、俺の後頭部を支えた。

 逃さないというほどの仕草に、俺は今から起こることを考える。


「風花……?」


 風花はウインクをしてから、目を閉じた。

 まるで――、キスを待っているかのように。


「ねぇ早く、晴路っ」


 まるで――じゃない、本当に待っているのだ。


「あぁ、分かってる」


 俺はそう言って、風花の顔に俺の顔を近づけていく。

 そして……。


 キスをした――。


 レモネードやら青春やら、キスに味をつけたがるが、味なんて分からなかった。

 ただ、幸せが舞い込むだけだった。


 風花は目を開けた。

 なんだか息が荒くなっている。

 間髪入れずに、微笑んでからすぐさま俺と二度目のキスをしてきた。


 …………。


 あっという間に、何分かが経った。

 風花以外のことをなにも考えなかったから、時間感覚もおかしくなっていた。


「……そろそろ帰る?」

「あぁ――」


 物足りなさそうに応えたのがバレてしまったのだろう、風花は「まあまあ」と言う。


「これからは、いつでもできるんだからさ」

「……それもそうだな」


 あやされている気がして癪だったけど、自分の本心には抗えずにそう応えた。


 すると、風花は俺の腕に腕を絡ませてきた。


「晴路、今日は分かれるまでこのままね」

「このまま?」


 道路でも電車でも、腕を組んだままにしようということか――。


「そう、別にいいでしょ。わたしはずっと待ってたんだから……」

「あぁ」


 俺は言い返すことができなかった。


 結局、最寄り駅に着くまでではなく、風花の家までこのままだった。

 軒先で分かれて、俺は一人家まで帰る。

 腕の感覚は、すぐには取れなかった。

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