第35話 体育祭当日
赤、白、青、緑、黄――。
クラスごとで、全部で五つの色のブロックに分けられる。
ちなみに俺たち二年四組は緑だ。
各ブロックの長が全校生徒の前に集まり、選手宣誓として言葉を述べた。
そしてそれが終わると、俺たちは緑と書かれたスペースに移動する。
/ / / / /
「それでは、騎馬戦に出場する生徒は集合してください」
そうアナウンスがかかり、風花と夏実はそこに向かって行った。
その直前、風花がこちらまで歩いて来て、「応援してね」と言ってきた。
俺は「もちろん。するよ、応援」と返した。
すると、風花は微笑んで親指を立て、サムズアップをした。
「晴路――、俺も応援していいんだよな」
背後から気弱そうに話しかけられて、後ろを見ると、そこにいたのは累だった。
「いいだろ? 同じクラス、ブロックの仲間なんだから」
俺はわざと論点をずらして、そう言った。
しかし累は、そんなことを許すはずがなかった。
「晴路はいいな――ってことだよ。わざわざ、あんなこと言ってもらえて」
「…………」
なんで自分から、自分の首を絞めるようなことを喋るのか、俺には理解できない。
だから、なんて返答すればいいのかも分からない。
「ごめんな、変なこと言っちゃって」
累はそう呟いて、グラウンドの競技をするスペースに目を遣った。
風花は騎馬戦の下側にいた。
上にいて他の人の帽子を取る人よりかは、決して華やかな役割ではない。
しかしここからかろうじて見える、風花の顔や汗を感じれば、そんなことどうでもいい。
ただ、風花が頑張っている――それに対して応援したいと思った。
累も考えることは同じだったのだろう。
結局、風花を応援していた。
/ / / / /
いくつかの競技を挟んで、二人三脚をする時間になった。
俺と風花は、並んで集合場所に行く。
そこでは『男子』『女子』『男女』というボードをそれぞれ持った人が三人いて、俺たちは『男女』の前に向かった。
なんだか、空気感が全然違う。
むさ苦しい汗とただならぬ疲れの体育祭じゃなくて、ここは青春の甘さと焦ったさが溢れ出している体育祭だ。
つまり、この二人三脚男女部門は、カップルの巣窟と化している。
手を恋人繋ぎにしているのが、4ペア……。
腕を絡ませあっているのが、2ペア……。
顔を見合わせて「頑張ろっ」とか言い合って、照れあっているのが、2ペア……。
そんな彼氏彼女っぽいことをして、すでに団結力を周囲に見せつけている。
こんなことをしていなくても、付き合っているんだな――と感覚で分かるペアが多い。
俺たちは横並びで、突っ立っているだけだから、そんな勘違いはされていないと思うが。
そんなことを考えていると、体育祭の実行委員の男子から、移動してくださいと言われた。
その男子に、みんながついていく。
「晴路、行こっ」
「あぁ」
俺たちもその後を追った。
そのとき、ちらっと和田さんがいるのが見えた。
手をガッツポーズにして、ガ・ン・バ・レ――と口パクをしていた。
あんまり話したことがない男子一人にも、こんな応援をしてくれるなんて、和田さんがどれだけクラスから愛されるのかが分かった。
………………。
…………。
……。
男子ペアと女子ペアの二人三脚は無事に終わった。
緑ブロックは、赤ブロックと一緒に一位タイになっている。
他の学年のぺアもいるが、俺と風花にも勝敗が掛かっているということだ。
それではみなさんお待ちかね――と、放送部のアナウンスが期待を盛り上げる。
「二人三脚、男女部門ですっっ!!」
去年もそうだったが、赤の他人である男女がイチャつくような競技を誰が求めているのだろうか。
しかし、一定層からの需要は大きいらしく、しっかりと盛り上がっているから否めない。
「毎年多くのカップルが参戦する、我が校が誇る競技――。一体、今年はどんなドラマが生まれるのでしょうかっ!」
アナウンスは、さらに生徒を煽っていく。
いや、付き合っていない男女も参加するんですが……。
そんなことは考えていないかのごとくの放送だ。
「さて、どうでしょう。ですが、この競技に出場するのは普通の、交際していない人たちも……ですよね?」
もう一人の放送部員が思っていたことを言ってくれた。
だがしかし――。
「でも、息が合う二人ですよ。ただならぬ関係じゃないはずです」
「なるほど、そっかー!」
何故か感心していた。
なにか問題がある気がするけど、気にしないことにしておこう。
考えすぎたらダメな気がする。
「…………」
風花が無言でこちらを見てくる。
さっきのアナウンスに対して、なにかを言いたいみたいな感じだ。
俺もなにか言いたかったが、言うと意識しているみたいで言えなかった。
「頑張ろっ」
「あぁ、頑張ろう」
それだけ言葉を交わした。
…………。
走る順番は『1年→3年→2年』となっている。
俺たちの前に走った、3年のカップルは無事にゴールした。
やっぱり、ああいう雰囲気の人たちは息もぴったりだ。
「今までの練習の成果を出そっ」
「あぁ、いっぱい頑張ったからな」
パンっ――!
ピストルの音が鳴った。
事前に決めていたとおり、内側の足から踏み出していく。
足のリズムは完全に風花と同じで、呼吸のタイミングまで一致している。
だんだんと速くしていき、2メートル進んだころには普通に走るのとあまり差がないほどになった。
風花と触れ合っている肌も気にならない。
慣れてしまったというのもあるかもしれないが、本気なのだ。
周りの雑音が聞こえなくなる。
しかし「風花」「割ヶ谷」と俺たちの名前を叫ぶ声だけは、耳を通って頭の中に入っていく。
クラスや緑ブロックの応援もあってか、俺と風花の二人三脚のスピードは一段と上がった。
もうそろそろゴールだ。
白いゴールテープは、まだ誰にも切られていない。
他のペアがどうか知りたいが、前だけを見るから分からない。
俺と風花はただ、全力で走り切った。
…………。
俺は風花とともに、地面に倒れ込む。
疲れの中、放送部が喋っているのを聞くと「緑ブロックが一位ですっ」と言っていた。
「風花、一位だってさ」
「そうだねっ。やった」
「うん、嬉しい」
俺はそう言って天を見上げたのだが、風花に脇腹を突かれて、そちらの方に顔を向ける。
あぁ、顔が近い。
「いや違う。わたしたちだから、当たり前だよ」
目の前にいる風花は、ニカっと微笑んだ。
俺もつられて笑う。
「晴路っ、ありがとっ」
俺は倒れ込んだまま、風花に抱きしめられた。
俺も抱きしめ返す。
これじゃあ、付き合っているらしい他のペアたちと同じじゃないか。
自分の中で、そう呟いた。
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